ENo.0338　ドランカー

【14：Remodeling】

どれだけ酒を飲み続けようと、残ってしまった時間は寝るには永い。

茫洋とした意識を現実に戻したのは、わざとらしく吹き鳴らされたハイドラのエンジン音だった。


「うるせぇ、今何時だと思ってやがる」

痛む頭を抱えてガレージに下りてくる酔っ払い男。
それに応えたのは、ほとんどフレームだけになった粗末な無人のハイドラだ。

《AM11:23 起きる には 遅い 時間 です》

「俺にとってはそうじゃない。静かにしてろ」

冷たく突き放すが、この日、ハイドラ――AIのMARYはしつこく食い下がった。

《否定 アセンブル を お願いします》

「後にしろ」

《否定 仕事 まで 時間 が ありません》

その言葉に、自分が1週間近く眠っていた事に気づく。
だが、大したことではなかった。世界の行く末などには興味はないのだ。
適当に、拒否の材料を考え、言った。

「ああ？……もうこんな時間か。
だが、もう予備の部品がない。発注を待ったら間に合わん。有給申請出しとけ」

しかし、

《不要 手配 は 私 が しました》

「……なんだって？」

耳を疑う――言われて見れば、ガレージには見た事のない部品の山。
中には、最新式のグリスターユニットまである。

《お手 を 煩わせ ません マスター
指示 通り に アセンブル 願います》

言い終わらない内に、近くのモニターに完成図が表示される。
顔をしかめる酔っ払い。


「ここでやった事ないシステムを試すなんざ、メモリクリアでもしたのか？次の仕事は試運転できる雑魚じゃない」

《否定 覚えて ます 霜の巨人 です》

「ならとうとう壊れたか――」

《それも 否定 しかし 問題 ありません》

「ちっ、何を根拠に……」

《やれます 私達 なら マスター》


深く溜息――いつの間に、こんな無謀をするヤツになったのか。
今度マーカスにあったら中身を念入りに見てもらおう。

だがそれはそれとして。

「しかたねぇな、足引っ張るようならジャンクショップに売り飛ばしてやるからな」

《では マスター は どこが 買い取って くれるでしょうか》


酒で濁った瞳に僅かな光が灯る。

――新機体。その言葉に好奇心をくすぐられる程度には、彼はまだライダーであった。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。