ENo.0281　アビダン

アビダンは操縦棺の中で膝を抱えている。外よりは幾分かましではあるものの、それでも細く吐かれる息は一度白く凍ってから霧散する。薄暗い棺内、計器の針はぐるぐると目まぐるしく動き続けている。ブーンという低い音。モニタの点滅……意味をなさない線と点の羅列。ノイズ……絶え間なくうねる波のような、耳に手を押し付けた時にだけ聞こえるような、内側で轟き続けるような……それらが、アビダンを取り囲んでいる。暗がりのなかに浮かび上がったアビダンの輪郭、落ち窪んだ陰影のあいまでいずこかを見つめる暗く鋭い目、痩せた頬……緑色のライトに縁取られたそれは、未だ幼さの残る少年の横顔だった。その横顔を撫でるようなノイズの波……ゆったりと動き続けている……子供を撫でる母親の手のように。アビダンはもちろんそれを感じている。もはや無視することはできなかった。けれどもその正体が掴めない。ハイドラに取り憑いた死んだ犬。ライダーを取り込んだハイドラのAI。理解できる。けれどもお前は。お前はいったい、誰なんだ。なんだってそんなふうに。アビダンは思考だけで問いかける。ノイズはそれを知ってかしらずか、ころころと笑うようにわずか乱れる……穏やかなリズムを保ちながら、変わらずアビダンを取り囲んでいる。アビダンはもう、このハイドラから降りられない。ノイズは走り続けている……、波のように。脈のように。どくん。どくん。どくん……、

（どくん。）