ENo.0688　チェシカ

研究所内は慌ただしかった。

レジスタンス、企業連盟の残党…いまのこの状況を打開するため、各方面からこの小さい研究所にですら協力要請がはいっているのだ。

とはいえ、ハイドラ用のパーツ…とりわけ生体電池や生体部品を扱う末端の研究所。
協力出来るものなど大手企業に比べれば、その辺にの地面に散らばるウォーハイドラのネジよりも小さい。

それでも…もしかすれば…この戦いに何らかの形で、わずかでも関われたのならば。
それが万が一…勝利とされる側についていたとしたら…指を咥えて行く末を見守るよりも、少しばかりでもそれに貢献できていたとすれば。
研究所…一人の研究者として…成功という結果を、歴史に残せるのかもしれない。

彼らはそれらに貪欲で、忠実で…この戦いに加担することがそれに一番近いルートである…と、研究所内の意見として一致していた。

この戦いに研究ではなく、一つの小さい勢力として参加する事を決めたのだ。


10と半ばに満たない、残像領域に半死半生でどこからか流れ着いた女の子と
積み重ねてきた、生体研究の集大成として
実験や研究ではなく、戦うという意思で
勝利を信じ、それを掴み取るために
戦地に立つことを選んだ。





今日も誰も話かけてこない。
急用が入ってしまって忙しい…そう言われてから、随分と放っておかれている。
ここの人たちは、何かと多忙そうに感じる…が、何もない部屋で一人でいる事は存外暇でしょうがないのだ。
ハイドラの試合は何度も見たし、資料に目を通す事も飽きてしまった。
先日初めて、年の近いハイドラライダーと言葉を交わしたのだけれども…試合が終わればやはりどこかへ行ってしまうのである。
同じチームとは言え、戦果を取り合う関係なのだから…仲良しというよりも、もっとドライなその場限りの関係だったり、ライバルだったり…そんな感じなのだろう。

…たぶん？

よくわからないけれども。



いつもの部屋を出て外へと足を運ぶ。
初めてここから見た空は高く青く、色とりどりの草花と肌をすべる湿りを帯びた風には心を揺さぶられたものだ。
今は…空はくすんでどんよりとして、風も冷たい。
草花はしおれてしまっている。

聞けば、このあたりは気候が変わって行くものらしい。
今は、寒い季節…というものが近づいているのだとか…。


にゃぁ…


足元に、白い猫がいた。
寒いのだろうか…何度も、何度も顔を足に摺り寄せてくる。

「こんな所にひとりなの？寒い？淋しいのかなぁ…。にゃぁー…おいでねこさん。
怖くないよ、ね？にゃぁ…。」

手を伸ばして猫を胸に抱え上げる。
綺麗な毛並みに頬を摺り寄せていると、ヒュゥ…！っと一段と冷たい風が通り抜けた。
思わず肩をすくめ、猫に直接当たらないように風を遮った…。

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