ENo.0647　有明

こんな結果に終わったのも、また面白いと言えるかもしれない。
まあ、それを笑い飛ばせるのは一部の人種だろうが。

先にも後にも、祭りと呼べるものはきっとこれで最後だろう。
この世界も、じきに“終わり”を迎える。
どういう意味だって？そんなの言わなくても分かるだろ。

部屋の前に着いて、インターホンを軽く鳴らす。
どたばたとぶつかる音や落ちる音。それが何回か聞こえてきてドアが開かれた。

「すごい音してたけど大丈夫？」

現れたのは、普段と比べて随分とボロボロな彼女。
髪はボサっとしていて目の下にも物凄いクマがある。

『……何』

あと声がめっちゃ冷たい。ちょっとぞくぞくする。冗談だけど。

「…………大丈夫？」

一応気にかけるように声をかけたものの、その言葉に返事はない。
代わりにジトっとした冷たい視線と、中に入ることを促す仕草が返ってきた。
僕は小さく、お邪魔します、と言って中へと入る。

随分と散らかった部屋だな、と、そんな印象を受けた。
というより、片づけられていたものが崩れてそのまま、みたいな。
そんな風に部屋を見渡していると、彼女はいつの間にかベッドに倒れこんでいた。

「……頼んでたものできてる？」

身体はさっき気遣ったし、まあ大丈夫そうなのでそれは置いておく。
本題の話を進めようとすると、彼女の指先が放置された端末に向いた。
そのまま視線をそちらへ向けて、椅子に腰を下ろし眺め始める。

シフト格闘、多脚射撃、殲滅、次元潜航。
いくつもの廃案の中に、種々雑多なアセン案が並んでいる。
……彼女用のアセン案も混ざってるが。生存性を意識してるのは、そういうことか。

一通り纏め終わり、印をつけ、席を立って彼女の傍へと場所を移す。
眺めてみると、まるで死人のように横たわっている。顔も死んでる。
でも、そんなことお構いなしに、つんつんと頬をつついてみる。
そしたら首が折れた人形みたいに顔がこっち向いた。こわっ。

まあ気にしないけど。なでなで。

『……なに……』

かわいい。

「ねえ、ひとつ訊いていい？」

僕がそう訊くと、彼女は目を細めて首をかしげる。
たぶん、どうぞ、ってことなんだろう。僕は話を続ける。

「おねーちゃんって、“この世界が終わったら”どうするの？」
『別の世界か、他の時空にでも行くわ』
「残像領域に来た時と全く同じように？」
『ま、そうね』
「ん。」

まあそうだろうな。
表情を隠すようにしながら、ぽふぽふ繰り返し頭を撫でる。
どうしたの？と、そんなことを言った彼女に、僕は何でもないように言葉を返した。

撫でる手を離す。

「また、寂しくなるなって。そう思っただけだよ」

立ち上がって歩き出す。
それきり、彼女の方を向くことはしない。

部屋を出る。
太陽の見えない残像領域の風は、少し肌寒い。

太陽は此処に在り。