ENo.0029　猫目 黄金

件名：なし
From 腕無し
To 琥珀

メフィルクライアは死んだ。正確には壊れた、か。
実は良くわかってなかったんだが、あいつはAIみたいなモンだったらしい。随分と人間味のある亡霊だったよ。

霜の巨人を破壊して、残像領域の霧は消え去った。美しい快晴さ。少しでも良くなるように黄金にも日光浴をさせている。
そうそう、一度だけだが黄金が目を覚ましたよ。声は出なかったけれど、俺のことを見て、腕無しさんって口だけで言ったんだ。少し寂しくもあり、嬉しくもあったよ。俺はどこまで行ってもお前……猫目琥珀ではなく、腕無しという一人の人間だと、黄金はわかってくれたから。
今はまた長い眠りについている。体調は回復している、だから今は寝かせてあげてほしいと医者からは言われた。黄金といっしょに浴びる日の光は最高さ。
考えてみれば、この世界では一切日の光を浴びない生活をしていた。ヒトが生きるためには日光は欠かせないんだとだれかから教わった気がする。暗闇が好きになった俺にはわずらわしい言葉だったけど、幼い頃は俺の弟と日向で昼寝をしたことを思い出した。光ってのも悪くない。

世界はまるでお祭り騒ぎさ。どうにもこの晴れ渡った陽気な空のせいで「生命と全ての種」ってモンが発芽して世界を終わらせるんだとさ。
それが結局どういうモンかは知らねぇし、興味もない。ただ死ぬのはゴメンだからさっさと逃げられる準備だけはしてるよ。そして、今はまだ逃げ出せない。黄金を置いてはいけない。

それと、朗報だ。アンビエット・ユニット「メルククラリス」の通信を掴んだ。どうやらこいつもメフィルクライアと同じ類らしい。ただこの世界を崩壊させるつもりもないようだ。
メルククラリスがなにを出来るのかはわからない。だが黄金を拉致した医療団体がまったく的外れなことをしていたのは良くわかったさ。医療団体が作っていたのは紛れもなく盗作の兵器で、それも使用者がぶっ壊れようがお構いなしの非人道的な殺戮兵器だった。
思えばメフィルクライアも兵器ではあったが、思想は違った。やり方はどうにしろ、霜の巨人を起動したのは世界は破滅させる種を死滅させるためだと言っていた。決して人類を殺したかったわけではない。その過程で死んでしまう者は不可抗力だと、いけしゃあしゃあと言っていたのには目を瞑るが。
兵器は人を救うためにある。その根本的思想を欠いていた医療団体の兵器じゃ、何処までいってもメルククラリスのalter（贋作）でしかなかったのさ。霧が晴れた今となっちゃまるで使い物にならない駄作だよ。まぁ、俺にはお似合いだったのかもしれねぇが。

……黄金が起きたら、俺はアイツをお前のところに返すよ。俺は怖かった。アイツと離れたくなかった。今度こそ本当に、二度と会えなくなってしまう。二度目の別れだ。だから黄金が狙われていると知りながら、俺は一人で黄金を守りぬくと決め、匿うために旅行を計画した。そして失敗した。俺せいだ。だから俺は……離れなければならない。





いやだいやだいやだいあｙだいやだいやだいやだ
さびしいずるい、なんで俺はおまえじゃない
おれはお前になりたい、どうすればこんな汚れた俺はお前になれる？
たすけて、たすけて、たすけて

---2017.11.24---

残像領域に幾つも存在するジャンクヤードのうちの1つ。