ENo.0592　アンドリュー・ツォン

青空が、晴れ渡っている。






※





「青空だーーーー！！！！」

ハイドラ大隊に倒され、雪崩れのように崩れていく霜の巨人の体躰の向こうからは、みるみるうちに青空が広がっていった。

霧が晴れた。太陽を見たのは、何ヶ月、いや、何年ぶりだろう。子供の頃に見上げた故郷の空を思い出す、見事な快晴だった。

家に帰ると俺は、まず洗濯をした。タンスとかに閉まってあった服も全て引っ張り出して、めちゃくちゃ洗濯機を回した。これは絶好のチャンスだ。残像領域では常に霧が満ちていて、出来るだけ霧の薄〜い日を見計らって洗濯をするしかなかったのだ。

「絶好の洗濯日和やんけ！」

俺は嬉々として物干し竿を設え、晴天の下洗濯物を干しまくった。布団も干した。お気に入りのクマチャンの柄の毛布も洗った。洗濯には、いつもよりちょっといい値段の柔軟剤とかを使った。良い匂いがしてめちゃくちゃ気持ちよかった。

もちろん、ナース服も洗った。洗濯するついでに、裾や袖のほつれを縫い直したり、ボタンを付け直したりした。最近はAmazonで注文するだけでなく自分でもナース服を作るようになってきたので、裁縫のスキルには磨きがかかっているのだ。

生地が傷まないよう、一枚一枚丁寧に手洗いしていく。張り切りすぎて、全てのナース服を干し終えたときには、この真冬だというのにうっすらと額に汗をかいていた。けれど、それも心地好かった。

赤、青、黄緑、黄色、橙、緑、紫。二十着を超える色とりどりのナース服が、真っ青な空の下で楽しそうにはためいている。

久しぶりに浴びる眩しい陽の光に目を細めながら、俺はその光景を見上げる。青空の下、七色のナース服が翻る。この景色はそう、まるで――

「まるで……虹、みたいだな」

口に出して、不意に懐かしくなった。青空にかかる美しい虹の橋。最後にそれを見たのはいつのことだったのか、俺は覚えていない。けれど、俺が最後に虹を見上げたのはきっと故郷の空だっただろう。俺はそのことに今、わずかな後悔を感じている。

覚えておけばよかった、と思った。こんなにも長い間、あの空を拝めなくなる日が来るなんてあの頃の俺には想像もできなかった。平和な時間がこんなにも簡単に壊れてしまうものだったなんて、考えもしなかった。

帰りたい。

もう、家族にも友人にも会えないけれど。それでももう一度、俺は故郷に帰りたい。

こみあげてきた熱い涙を手の甲で拭って、俺は晴れ渡る青空を見上げた。久しぶりに陽の光を浴びたおかげか、体の内にエネルギーが湧いてくるのがわかった。

帰りたい、ではない。絶対に帰るのだ。

そしてそのためには、俺にはまだここで、やらなければいけないことがある。

「行こうか――《愛宕》」

青空に向かって、俺は愛機の名前を呼んだ。

出よう。この空に、虹をかける戦いに。