ENo.0079　レナンティス

　乾いた風が行き交う人々の服を撫で上げ、そのまま蒼い天蓋へと吸い込まれていく。
　どこかのゴミ捨て場で拾ったラジオが言うには数日ぶりの青空だそうだ。灰色の瓦礫たちを照らしあげるように、青々と広がる空からは太陽の光が惜しげもなく降り注ぐ。
　ぱしゃぱしゃと水溜りだらけの街路に水飛沫を跳ねさせながら、背負ったバックパックの重さを確かめるようにステップを踏んだ。中に詰められているのは水筒と、猫が２匹。
「今日が、最後の任務と言う訳か」
　声はユベルのものだ。彼女の後ろで、パックから顔を出しながら見詰めてくる。
「おう！　最後まで気合い入れていくぜ―――っとと」
　意気揚揚と腕を振り上げた反動でバランスを崩しかけた。慌てて踏みとどまると、今度はバックパックから荷物が零れそうになる。辛うじて平衡を保った。危ない危ない。
「気を付けてよね。撃墜した影響、いくら幽霊だからって無いとは限らないんだから」
　声はレンのもの。彼もまた、背後から声をかけてくる。
「ははは、悪ィ悪ィ」
　それに笑いながら答えた。
「――――よし。それじゃあ改めて」

これから先、どんなことがあっても。
彼女とならば、きっと乗り越えられる。
蒼空の下、荒れ果てた瓦礫の街中で、果てしなき路標を目掛けて第一歩。

「いってきますっ！！」

　力強く、踏み出した。

がらくたと、猫と、幽霊と。
特に何もしません。まったり。