ENo.0268　ゴートリンデン

（そうそう、ご自身のAI処分する時間がありませんでしたので、対面してしまうと思いますが。
土に埋めれば自然に帰るエコ仕様ですので。お手数ですがそのように。）

施設の職員が帰り際に言った通り、コンテナハウスには俺にそっくりな男がいた。
その自走型だというAIは、ただピクリとも動かず。電池が切れた人形のようにソファに座っている。

一通り中を見まわすと、俺は簡易キッチンの冷蔵庫に目をやった。
この中にはAIが作った料理がこれでもかというほどつまっている。
「…俺は、料理なんて作ったことないんだがな…。」
それだというのに。
おふくろが俺に作ってくれた料理の記憶そのままを、こいつは僚機につくってやったようだ。


AIの最後の記憶は、前回の戦闘後、僚機が無事であると判断しここに帰ってきたところまでだ。最後まで、腹が減ってはいないか、少年が明日も生きられるかを考え。
その姿を直にその目で確かめる前に役目を終えた。


窓の外をどこかまぶしそうに眺めるAIのそばに寄り、そのポケットにそっと手を入れる。
硬い感触。
銀色のカードが出てきた。
それを自分のポケットに突っ込むと、今度は整備場に向かう。

ごちゃごちゃと改造されてはいたが、ここに来る前から見慣れた戦闘機がそこにはある。
「ゴートリンデン…。」
ちいさく呼んでから、コックピットに滑り込んだ。
エンジンは容易にかかったが、犬は現れないし、記憶にあるような暗闇もなかった。

「さて…」
操縦桿や計器を見る。
記憶を手繰れば機体の操作は容易にできそうだ。今日はこれからこれに乗り、出撃する。
特にそうする理由もないが。
AIがしきりに気にしていた僚機と、共に出撃しなければならない気がした。
その少年がいなければ愛犬のことには気づかなかったろう。

回転計、排気温度計、燃料計…
ひとつひとつ確かめ、最後に通信機に手をかける。
あの少年に、今夜ここへ来るか聞いてみなければならない。




「おい、きこえるか『アビダン』
『クラウス』だ。」



俺は、冷蔵庫の料理が無駄にならないことを祈った。

どこからか迷い込んできた雑種の犬。

遊んでほしそうにこちらをじっと見つめる犬。

筋トレをしていると腹に乗ってくる犬。

くんくん言いながら餌をねだる犬。

じゃれついてきては困らせる犬。



がいる体で。

常に見えない何かと格闘する人生。そこに犬が居てよかった。
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