ENo.0255　マヒロ

　――ほんの少しだけ、戻りたいと思った。
　メルサリアからのメッセージ。時空震とやらの中に飛び込んで、やり直すことを、過去を変えることを願った。
　それは一瞬だった。
　もう、マヒロは前に進んでいる。居場所がある。何より、それを知っている。
　だから戻る必要はなかった。

　後悔が消えたわけではない。消えるわけがない。それは心の中にずん、と深く居座ったままだ。
　でも、今ならうまく付き合っていける気がした。
　そうやって、この霧の晴れた世界を生きていくのだ。

　しかし、この戦いが終わったらどうするのだろう？
　霧がなくても、どうやらハイドラは動く。霧のない環境で、ハイドラの姿は変わっていくのかもしれない――きっと変わるとマヒロは確信している、今までもそうだったからだ――が、ハイドラがいきなり姿を消すであるとか、ハイドラライダーの需要が急激に減るであるとか、そういったことは考え辛い。
　だから案外、マヒロはけろりとライダーを続けているのかもしれないし、もしかすると今日の戦いが最後になるかもしれない。
　最後だなんて、もともと死と隣り合わせの世界に居るのだから、何を今更と言ったところでもある。が、なんとなく、そんなことを思った。



　『タランチュラ』はいつもと変わらず、格納庫の中で佇んでいる。
　変わった点といえば、ここのところよく積んでいたミサイルやロケットではなく、放電コイル――彼が違法にライダーをしていた時、好んで使っていた火器――が装備されていること。
　そして、腕の一つに硬質ダガーが備えられていることだ。

　GD-08[デュプリケイター]。
　『タランチュラ』にあつらえられた、この残像領域に一振りしかない硬質ダガー。

　これがもし最後であるならば。
　もう一度、その音が聞きたかった。



　***



*それからのこと*
https://www.evernote.com/shard/s232/sh/1febd2c5-9514-437e-be2d-a3aeacee6ca5/353b6874bb5d05d0df36daa3bc06fb99

*日記のまとめ*
http://karankorooooooon.blog.fc2.com/blog-category-47.html

　――深い深い霧の中、ひそやかにアザレアが咲いている。



　ある日のこと。
　残像領域を歩く中、あなたは霧に巻かれて迷ってしまった。

　元居た場所に戻ろうと、あるいは目的地に向かうべく歩を進める中、
　ふと、足元に転々と赤を見つける。
　目を凝らすと、それはアザレアの花のようだ。

　アザレアに導かれるようにあなたは霧の中を進む。
　その先には古びたガレージがあった。

　あなたはこの場から立ち去ってもいいし、少し休憩していってもいい。
　何なら、ハイドラのちょっとした整備だってできるだろう。
　どうするかは自由だ。