ENo.0146　フレースヴェルカ

目が覚めた時。

その現実は私に、安息の日々が終わった事を告げた。

私の目の前に存在する、一機のハイドラ。

これから、何日もの間生死を共にする一機。

命の灯火を預けるべきそれが鎮座していた。


「貴方用に用意させていただきました。もちろん、どうするかは貴方の指示があれば、整備班の方々がその部品を使用して組みあげます」
「……でも、これってさ」
「えぇ。そうですね。マテリアルベルトの方は『格闘機の究極』とおっしゃっていました。実際それは余り間違ってないと思います」

隣で同じハイドラを見上げていた女性は、その言葉を告げていた。そして、わたしが思っていた事と同じ事を言いそうになっていた。
でも、すぐに口の前に指を持ってきた。

「おっと、ここで言うとマテリアルベルトの方に聞かれてしまいますね。二人になったら、お伝えしましょう」
「まぁ、いいけど……あなた、ライダーなの？」
「いいえ。ハイドラの部品調達が担当です」

不思議な女性だったけど。多分、そういうものなんだろうって。

「じゃあ、私は行ってきますね。初回、ご武運を。――あー。あと」
「うん？」

一度どこかに行こうとして、すぐに振り返る彼女。

「近くにカタログがあります。『作りたい物』決めておいてくださいね。後で教えてください。どんな手を使ってでも自由に作ってあげます」

自由に作って……？
その言葉に首をかしげて。でも、問いかける前に彼女は、どこかへ行ってしまった。伝えるべきことは伝えたと言いたそうに。
わたしの手元には、ハイドラの構造と操作のマニュアル。一緒に組む――らしい人の、名前だけ。

――ううん。

「結局、誰なのかわかってないんだけどなぁ」

わたしの疑問は、誰にも答えられないと思った。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」