ENo.0211　鼠花火

5年前のあの日、俺は先の見えない霧の向こうへと足を踏み入れた、そのつもりだった。暫くして視界を覆っていた霧が晴れて、現れたのは元いた戦場の風景だった。
周りには動くものは殆ど見当たらない。元々自動操縦機が多い戦場だった。決着がついた戦場にはハイドラの出番はない。もしくは霧に飲み込まれたか、どちらかだろうか。軋むような異音とともにがくんと機体が揺れて、カメラの視界が霧に覆われる。このハイドラも相当ガタが来ている。エンジンを止めて、俺も操縦席に沈み込んだ。

「──キミは行かなかったんだね」
通信機のランプが点滅していた。無視していたが勝手に接続が起動し、予想通りの声がした。俺をこの戦争に引きずり込んだ、忌々しいヤツ。気まぐれで作った機体に俺を乗せ、挙句の果てに妙な手術をさせられそうになったから逃げ出した。あいつに渡された端末は、どこかの戦場に投げ捨てた。それから一度も連絡を取っていなかった。
「まあ、そうだろうとは思ってたけどさ。キミは臆びょ…いや、慎重派だもんね。得体のしれないところに足を踏み入れることなんてしないだろうさ」
「…うるさいな」
「それに、キミには行きたいとこなんて無いんだろ？」

「ぼくのところを出ていった後、何をするのか暫く見ていたけど…キミは流されるまま、ただ成り行きに従っているだけで」
「キミの目的はなんだい？」