ENo.0398　“Neon”

　
「……うーん。大きく構成いじれそうなパーツは今回なさそう」


中空に映し出されるスクリーン。カタログと向き合っていた少女が、椅子にかけたまま軽く背伸びして唸る。
先程から手持無沙汰に指に髪を巻きつけては離すのを繰り返していたが、さすがにそれにも飽きたらしい。
そのまま更に背を逸らし、こちらに視線を向けた。

「ね、グラン」
「……あ？」

コーヒーを一口飲み下し、ちらりと視線を返す。
にこー、と妙に綺麗な笑顔がこちらを見やる。

「広域でエンジン、拾ってたわよね？」
「っぶ」

思わずカップが跳ねて、わずかに雫が鼻にかかる。
幸い垂れるほどの量ではなかったそれを、さりげなく手の甲で拭い。

「…………。それが？」
「エンジンC、ふたつ、ねえ……」
「………………、」

にやつくような声音。察されていることを理解して、そっと息をつく。



かねてよりあちらがご要望の限界駆動は、拾った重量軽減エンジンC二基では難しい。
……厳密には、できないことはないが生存性との両立が困難だ。
目標としては超加速状態と限界駆動、かつそれでなければ撃てない高火力の火器を積んで、更に霊魂律動も保ちたい。
これらすべてをどうにかしようとすると、霊魂律動の安定性に欠けるのだ。
一応クイックドライブもあるとはいえ──


「できないこともないんじゃないの？　あたしも自前で計算してみたけど」
「だめだ。今回は見送る」
「ぶー。……まあそりゃ、無理に危険に身を晒せとは言えないけど……」
「まず危険なのは“Neon”だし──それに、」

──乗るのは、グラン一人だけではない。
“きょうだい”が撃墜される可能性だけでも、認可しがたいというのに。
……言いかけた言葉を、途中で飲み込む。
こんなことを口にしたら、また調子づくことが目に見えている。


「……それに？」

きょとんと首をかしげる少女の額を、まるめた書類で軽く小突く。
大した痛みはないはずのそれを、わざとらしくあいた、と受ける彼女に、大げさに息を吐いてみせた。

「……そのうち、いいエンジンが出たらな」
「！　やったあ！」

簡単にごまかされる相方に、やれやれ、と瞼を伏せる。


……もしかしたらその嘆息は、素直でない自身にも向けられたものであったかもしれない。

異世界情報収集・販売大手のニフラス・カンパニーへようこそ！
当社ではこの残像領域での情報収集に適した人材を募集しております。
臨時採用となりますが、高給、任意休暇が保障されております。
索敵装備は必要ありません。あなたのやる気が力です！
↓お問い合わせはこちらまで！↓
E-24-ここは制御ユニオン-708