ENo.0072　テオとニコル

　治療室から出てきたテオは様子がおかしかった。
　いつもならどんな怪我をしても、傷跡が残っても何食わぬ顔でいるのに。
　ずっと何か考え込んでいるようで表情も暗い。……他人から見たらいつもの仏頂面かもしれないが。

「体調はどう？　ドゥルガーの中なんて気が休まらないけど、ちゃんと休んでおかないと」
「……ああ」

　相槌は返ってくるが聞いているか怪しい。銀色のタンブラーは中のココアともども冷え切っていた。
　静かな部屋に地響きがひとつ。ニコルたちを体内に閉じ込めたドゥルガーは、塔への進軍を続けているようだ。

「疲れてる？」
「うん」
「じゃあ、今回だけでも出撃を休むのはどうかな。ただでさえ撃墜されて怪我もしたし――」
「ダメだ」

　否定が返ってくる。

「今の君はとても戦えそうに見えないよ。戦況も厳しくなってるんだ。また怪我して更にコンディションを悪くするくらいなら、一度ちゃんと休んだほうが」
「それじゃダメなんだ。戦わないと、今ここで逃げ出せない」
「……どうして？」

　問いかけても答えはない。テオは拳を握って、俯いたままだ。

「そうやって、ダメだって言うだけで、理由はいつも教えてくれないよね」

　心配されているのは分かっている。何度も生死の境を彷徨って、そのたび彼女が手を握ってくれていたことも知っている。
　それでも、何も知らずただ守られる立場にいるのはもう嫌だった。
　役に立ちたくて足掻いてきた。その結果はどうだ。テオは何一つ語らずに、今も一人ですべて抱えている。

「俺は、役立たずなのかな」
「違う！　アンタは役立たずなんかじゃない！　オレが強くなったのはアンタのためで、でも、そのためだけの存在じゃない。オレは、オレが、こうなったのは」
「……テオ？」

　変だ。話の内容もよく分からないが、ここまで狼狽えているのは初めて見る。

「母さんの残像に会った。母さんは、『自分』と戦うために『オレ』を生んだ。オレが強くなったのはそのためだった。ニコルを守りたいと思ったのも……全部、全部、アイツの筋書きだったんだ」
「それ、は」

　絶句したニコルにテオは背を向ける。

「オレは、オレたちは、こんなことのために……？」

　疲れ切った声だった。
　掛ける言葉も見つからず、部屋を出ていく背中をニコルはただ見送るしかなかった。

Cafe ＆ Maintenance Mer-Millia

巨大樹木の中から、機械の大百足を探せば良い。
その樹の足元に、腕のいい整備士――あるいは料理人のいる店があるのだ。

カフェ＆メンテナンス『メル・ミリア』は、今日も密やかに営業を続けている。
禁忌戦争を生き抜き、霧とともに消えたとされたハイドラ大隊から戻ってきたと噂されている店主は、もはや多くを語らない。ただ、樹木に絡みつくように“眠っている”機械の大百足は、その時の店主のウォーハイドラだとされる。
時々たまに、思い出したように起き上がって、生きているかのように周りを歩き回るのだという。だから、この辺の木の根は金属の多脚にずたずたにされてしまって、あまり真っ当には育たないんだそうだ。店主はそう言って笑っていた。

今日のおすすめは、禁忌戦争で破壊されたと言われる要塞のひとつを模した店主手作りのケーキ。

！店および店主（ENo.7サブ）の既知可　4期既知（ENo.4）も可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/decoherence/union.html

（整備極ユニオンです。購入はユニオン主の独断。）