「やあーーーやあ。やあこれは。キャハ。やあすばらしいこれはほんとに。西垣くんきみは本当に、やあすばらしいこれは。キャハハ」

オガミ山全域に広がる松茸の海を目の当りにして、社長の大倉重雄が顔をてっかてかに光らせながら、オモチャのように笑う。

社長のまわりには、西垣が普段お目にかからないような重役達と、若手の黒服どもがずらりと並んでいる。

「タケツグ栽培部長の乱心を食い止めたのみならず、こ～～んな成果を持ってきてくれるなんて～～！社員のねえ鑑だよ、キャハッ。　　ね、里見くん」
「西垣くんねえオホンきみには社長のご温情あってだね、基本給の６ランクアップと、山の売り上げの0.1％を約束しようというのだ」

西垣はアクタガワの肩に座ってそれを見下ろしながら、社長どもの喋るに任せてつまらなそうにカルピスをあおり、空になったペットをそこらに投げ捨てた。

「…き、君ぃ！！無礼だろう！！社長の前だぞ！！」
「うるせェよ」
「えっ」

「ガタガタるっせーーーんだよォッッ！！！腐れブタどもッッ！！！」

西垣の怒気が突風のように吹き抜け、お祭りムードだった重役一同、あんぐりと口を開けてその場に固まった。

『えーとですね、タケツグ栽培部長の遺品の中に、あなたがたの談合記録がまるっと残ってました。
　非合法のキノコ菌類、みんな了解の上での遺伝子適応法違反。これ、終身刑レベルですよね。
　あとはまあお決まりの脱税、カラ雇用申告、うわっこれひどいなあ。社員が３倍いることになってる。
　まーその他もろもろ。これだけ証拠あったら、タケツグの奴が謀反しちゃう気持ちもわかりますね』

アクタガワの中から響くヤマノの声に、やがてその場の全員が青ざめたように震えだす。

「な、何をばかな。何をそんなもの。そんな。ただタケツグの。」
「里見部長、こっちゃ見たくもねェのにさァ。あんたの赤ちゃんプレイの写真まで出てきてよォ。
　きったねェケツにミルク瓶ぶち込まれた写真、俺ァトラウマでよ。どう責任とっていただけるんですかねェ？」

西垣がそこまで言うと、とうとう耐え切れなくなったのか
キャタピラの上で酒をあおっていた岡崎が、げはははは、と腹を抱えて笑い出した。

「け、ケツにっ、ケツミルクはお前っ、やめろビスコ、ぐひふふ」
「穴が逆でちゅ～～」
「ぎゃははははははは」

笑い転げる二人をよそに、ヤマノが続ける。

『まあそんなわけでエノキの１本もあなたがたには差し上げないので。
　いま、アクタガワから指一本で、ここらへんのデータを全部送信できます。
　いやもうこれは先輩次第なんですけどね。どうしますか？』

しばらく、その場に沈黙が流れる。

「…たっ、たかだか、たかだか平社員のお前が、私どもに、こん、こんなっ」

里見部長の言葉が終わる前に、スーツどもが我先にとアクタガワの前に群がり、地面に頭をこすりつけだした。

「ちがァ～～う！！！！ちがァうんですゥ！！！
　上にやれって言われただけでェ！！私は議事録とってただけなんですゥ！！」
「ぼ、僕も違う」「私もォ」

眼下に広がる光景にまたもや笑い転げる西垣と岡崎。
里見部長もその顔面をくちゃくちゃにして、ついに土下座する。

「あ～～やべ～～～クッソ気持ちいい！！あ～これだめいっちゃう。いくいく…」
『先輩、さっさとどーするか決めてください』
「ちぇーっ。まあいいや飽きた。なんか、きったねーし。
　オイッもういい散れお前らッ！！それともこの場で蜂の巣になりてェかァッ！！！」

西垣の怒号一括に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出すスーツ達。
社長も、身体を揺らしてとてとてと車に乗り込み、道路の向こうに姿をくらませた。



「失職しちゃいましたね、私たち」

「うん」

「退職金が千倍ぐらい出たけどな。これ、さばくのも結構骨だぜ」

「うん。
　………。
　でも、とりあえずさァ」

「売る前に…美味そうなの、見繕ってさあ。
　配りに行くよ、みんなに。
　美味い松茸、食わせてやりたい奴がさ、たくさん、居るんだよ！」



---------------- 松茸守りの西垣　　2015/4/20