ENo.0332　自律思考装置：MODEL-Y

この世界のどこか、小さな格納庫の仄暗い空間で、その男は情報端末を操作していた。



「さぁ、起動したまえ、わたしの可愛い可愛いヤストレブよ」
そう可愛がるような声をかけながら、ただの金属製の箱に新たな命を吹き込む。
電子音が鳴り、箱の節々に装飾されたLEDが基本セットアップが完了したことを知らせるように発光した。
自分で思考し最適な行動を選択する自律装置、いわゆる人工知能の基盤がようやく完成したのである。
「よしよし、良い子だね。次は準備運動をしてみようか」
自律思考装置の基盤から伸ばしたコードを戦闘機の形を模したハイドラ《Fogs bounds》の操縦棺に繋ぎ、自動操縦プログラムを導入する前に、この装置を通して機体が言う事を聞いてくれるのか試してみることにした。
するとどうだろう、一人でにフライトOSを取り込んだヤストレブは、ハイドラのエンジンを点火させ格納庫の外へと逃げて行った。
「……、確固たる自我は持っているようだね」
翅を広げ霧の中へと羽ばたいて行ったハイドラを見上げながら、一人残された科学者は独り言ちた。