ENo.0378　フレイド・コークス

　廃工場の掃除、依頼人のネーミングセンスは悪くないようだ。
だからと言って、仕事の中身は何時もと変わり映えしないのだが。
明日の依頼内容を確かめながら、愛機の整備を続ける。

タンク型と呼ばれるこの機体は外見こそ古めかしく、旧時代の産物ゆえに空を飛んだり、二足歩行で歩き回れるような代物ではない。
しかし、頑丈であることは疑いなく、またその重量と型の安定性を活かし重量の重い兵器も運搬が可能なのが魅力だ。

レンド社
私を死地から救い出し、そしてその対価として莫大な借金と義務を背負わせたあの忌々しい企業からのレンタル品ではあるが、機体に罪は無い。
それに、生まれ変わったあの日より、もっとも身近に在り続けた機体だ。
愛着は自然と生まれているのだろう。
私はこの機体を駆って明日も生き延びる。

明日は廃工場の掃除、つまりは依頼者の敵対勢力を一掃した後に、今後暫く行動を共にする少女を出迎えに行く予定だ。
私の方ではあくまで対等な協力者のつもりではあるが、彼女の認識がそうであるかは確証が無い。
もしかしたら、僕（しもべ）が主（あるじ）の送迎をするような感覚なのかもしれない。

ラキア・パラミダス。
旧時代の貴族や騎士のような思考を持った少女だ。
正確な年齢は分からないが、20歳には達していないだろうと思う。
だから少女と呼ぼう。

もしかしたら、最新の整形手術を繰り返した老婆というオチがあるかもしれないが…。
少ない会話で掴んだ印象に老獪さは無かった。
時代掛かった貴族的な思考は環境に拠る物が大きいのだろう。

ともあれ、彼女は逸材だった。
先述した旧時代的な思考は、身近な存在として接する場合はマイナスとして働くケースも多いが、物語の主人公という観点から見れば、キャラクターが立っていると言える。
また、外見的な麗しさはまずまずであろう。
きっと、彼女とその愛機が戦場を駆る様は見栄えの良い華となるだろう。
私が探していたのは、彼女のような存在、即ち物語の主人公（ヒロイン）になれる存在なのだ。

レンド社が持つという、記憶の再生技術。
それを私が使用するには、莫大な対価が必要であった。
その対価を支払う為に、私は彼女と協力する。

一方的な利用ではない筈だ。
私が彼女を利用するように、彼女もまた私を利用するのだから。

さて、ラキア・パラミダス。
最愛の貴方よ、私が出迎える前に宇宙の藻屑となっていないで欲しいものだ。
期待している。