ENo.0135　tears drop "heta"

　
　嗚呼、主よ。
　どうか彼ら、我らを憐れみ給え。
　それが皆々様の手向けになるのならば……


―――――　EP 1　――

　軽く挨拶を済ませた後、
　行き交う研究者ら技術者らを横目に、ラジオから流れる声に耳を傾け"その時間"まで暇を潰す。
　自分はただの乗り手。使い潰されてなんぼの替えの利く人型の部品だ。しかし彼ら研究者、技術者と呼ばれる彼らは違う。自分とは違って"替え"などない――と云ったら過ぎた表現になるが、限られた人員で在る事は間違いないだろう。乗り手も選ばれし者だけが成れるものなのだろうが、……どんな環境下であれ、兵は死ぬものである。使い潰されてなんぼの自分が、尊ぶべき彼らの邪魔をしてはいけないのだ。

「―――――」

　……眺めている自分が余程暇そうに見えたのだろうか。それならば実に勿体ない事だが、こんな自分にきっと憐れみの情を抱いたのだろう。白衣の男が此方に顔を向けて、口を動かしながら歩いてくる。あぁ嫌だな面倒臭い。
　友好的な笑みに応えるように表情筋を動かして、椅子に下ろしていた腰を上げて向き合う。差し出された右手に利き手を伸ばしてやれば、相手から勝手に握手をしてくる。やりやすいが、実に勿体ない。その間も相手は何かを喋っているようだ。相槌を返す。反応を返せばそれはもう嬉しそうに笑うのだから、本当に単純な生き物で助からない、わからない。わからない？何故？こんな自分には勿体ない？

「―――――」

　椅子に座るよう促される。手を離された後、望まれた通りに再び腰を下ろしてやれば、相手は満足気に笑い、テーブルの向こう側の席に歩みを進めた。
　その間も唇は止まらない。椅子に腰を下ろして此方に顔を向け直しても止まらない。よく喋る奴だ。

　……そう言えば、此処ではいったい何の研究をしているのだろう。此処も爆破されるような所なのだろうか。
　上からの命令で配属された場所は、今すぐにでも潰れてしまいそうな、寂れた研究所だった。