ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ０３：その命、天に返しなさい』

『……ユリア』
「なんだ？」
『こないだ、「トリグラフ」の内部システム点検をしてたら、こんなデータが出てきたんだけど』

　画面にズラッと羅列されたのは、21世紀初頭に放映された特撮ドラマ『仮面セイバー』のアーカイブ。所謂『平成セイバー』とくくられるタイトルが並んでいる。

『好きなの？　仮面セイバー』
「あ、ああ、まあ、な。この世界にもデータが存在してたので、ついダウンロードを」
『その中でも、2008年度の「騎馬」と2013年度の「戦國」をよく見てるよね。再生回数がやたら突出している回がある』
「ああ、好きなんだ」
『……ふうーん』
「どうした？」
『ユリアはああいうのが好みなの？』
「うん？」
『騎馬とか戦國の主人公』
「ああ。特に戦國はすごいな。主人公の俳優がスタント無しでアクションをこなす様は、是非見習いたいと思う」
「あと、当時の噂話を集めると、仮面セイバーは基本的に、物語の進行が赴くままに、臨機応変に脚本を書いてゆくらしいが、戦國だけは最初から最後までほぼ全体の流れが決まっていた、特殊なパターンである事で有名だったそうだ」
「それだけに、とにかく流動性のある騎馬は、対比として非常に面白いな」
『……あ、そっちなの』
「？　そっちとは何だ？」
『ううん、別に。何でもない』
「そうか」
『僕も少し見てみたけど、騎馬の２号セイバーは面白いね』
『「その命、天に返しなさい」って満を持して出てきたのに、どんどんネタキャラに変わってゆく様は、愛着すら湧くね』
「だろう？　彼はとても面白いんだ」
『いつか戦場で言ってみたいね、「その命、天に返しなさい」って』
「早速次でやるか？」
『うん、面白そうだね！』
「よし、覚えておこう」
『……あ』
「なんだ？　また天のノイズか？」
『うん』
『「この日記も、仮面セイバーの脚本方式でいくからよろしく」って』
「……つまり、完全にいきあたりばったりという訳か。いつネタが尽きるか、心配だな……」
『「とりあえず次回と次々回まではぼんやり考えてるから安心しろ。次が思いつかなかったら休暇だ」とも来た』
「休暇、か。そういえば、こちらの世界に来てから、まともに休養を取った記憶が無いな」
『休暇が取れたら、一緒に仮面セイバーのアーカイブを見ていようよ。2007年度の「おでん王」も気になるな』
「そうだな。だが、そうそう休んでもいられないぞ」
『なんで？』
「先日の戦闘でわかったが、『トリグラフ』は実体弾連射武器が多すぎて、維持費が馬鹿にならない」
『ああー……、休暇じゃなくて整備にして、計算機と睨み合わなきゃだね。仮面セイバーはおあずけかあ』
「気をつけないと、我々が、その命を天に返す羽目になるからな」
『ユリア……冗談言えるようになったんだんね……。段々この世界に馴染んできてるよ』
「はは、まあな。方向性が飛んでゆく展開に慣れるのも、仮面セイバーのお決まりだ」
『意外な効果があったね、仮面セイバー……』

To be continued…