ENo.0326　〈家族〉

ハッチが開き、光と共に霧が俺の近くまで忍び寄った。
なにもかもの感覚が曖昧で、今この瞬間が現実かどうか、それすらもはっきりしない。
今までの光景は何だったのかもわからない。
霧の中で、必死に、身体を引きずるように、周りにはたくさんのロボットがいて、ああ、なんだこれは。俺は何を見ているんだ？
体の感覚を理解する前に、何かが破壊され、破壊され、破壊され……とうとう戦闘(多分そうなのだろう)が終わった。

……そうしてぼんやりしていると、しゃがまなければいけない気がして、不器用に膝を曲げた。
そうして感覚はとてつもなく大きい何かから切り離され、自分がぎゅう、と縮んだ気がした。
目を開いても真っ暗で、身体も動かせない。自分がひどく狭いところに居ると気づいた。

そうして光が差し込む。

泥水の中を泳ぐような感覚。
声がうまく出せない。
喉と肺の動きがてんでバラバラな気がして、無理に声を出そうとすればするほど苦しくなった。
がやがやと声がする。
耳鳴りなのか、人の声なのか。なにもわからない。

体が重い。けれど部分部分で引っ張られているようでもあり、どこが天か地下も曖昧だ。だれか、と叫ぼうにも声が出ない。
また口を動かすと……大きい手が、俺を引き上げた。
暖かい手が俺を、泥の底から引き上げるように力強く抱き上げた。


笑顔。
何秒か経ってから、自分の見ている何かが笑顔だと思い出す。
懐かしく、同時に頭の奥を指先でぐるぐるとかき回すような不快感を覚えた。


そうだ俺は父さんとキャッチボールをした。
空がとても青くて、母さんも父さんも妹もみんなニコニコしていた。


声が出ないまま、ぼんやりとした視界の中で俺は何かに置かれて……ガタガタと世界が揺れた。どこかに運ばれているらしかった。
これからどこに行くのだろう。なぜあんなところにいたのか。何も思い出せない。
ご安心ください、ぼっちゃま と頭の中で声がして、ぐるぐるゆっくり回る渦の中に、俺の意識はこぼれ落ちていった。

キャッチボールをした。
キャッチボールをした。
キャッチボールをした。