ENo.0160　ルーゼンエッタ

　清潔なベッドで目を覚ます。
　誰の部屋でもない、自分の部屋だ。
　マリア＝ローザを強奪してからここ一ヶ月ほどで生活は一気に変わった。
　衣服は自分の好みのものを着るように戻り、下宿に入りいつも朝夜は美味しい食事を取り、夜は清潔なベッドで眠り、時折強制的に着いてきたメカニックとくだらない話をして。
　自分の技術を安売りする必要も、眉を寄せながら自分の時間を切り売りする必要もなくなった。
　戦場に身をおいているのは昔――組織にまだいた頃と変わらない。
　だからそれは全く怖くはなかったしマリア＝ローザ――“ロン”もいるのだ、何を恐れる必要があるだろうか。
　もしかすれば死ぬかもしれない。
　それも怖くない。
　“ロン”と一緒なら、何も怖くない。
「――んぅ……」
　ベッドの中で寝返りを打つ。のろのろとベッドサイドの時計を見て時間を確認する。
　暖かい食事を取るならそろそろ起きなければならない。洋服を着て化粧をして、と言うのは案外手間のかかる作業で、少々時間がかかる。同室（寝室は違うが）のウォルナードは仕方がないとしてもすっぴんをお披露目するわけには行かないのだ。
　“可愛い女の子”でいたいとずっと思っていたし、出来る限りそうしてきたつもりだ。
　食べたパンの枚数を数えないのと同様に何人殺したかも覚えていなかったが、そこだけはルーゼンエッタがルーゼンエッタであるために譲れないラインであった。どうせ長生きはできないのだ、それならば理想の自分でいたい。そんなささやかな願い。
「……ぅー……」
　ノロノロと身体を起こす。食事は遅く行ってもある程度の時間までは取っておいてもらえるし、もう少しくらい眠っていても問題はないのだが、出来たてで温かい食事、となるとある程度は時間は限られてしまう。レンジやトースターで温めるのは勿論可能だが、暖かくて味も質も良い食事という物を覚えてしまうと、それを逃すのはどうも惜しくなってしまう。
　これも食べ物になど殆ど関心を払わなかった以前とは違うことだ。
　夜間着を整えて髪を梳かし、簡単に身だしなみを整える。
　別にどうと思っているわけではないが、一応同居人は男性であり、最低限のラインはある。
　もっともあちらは堂々とハンツ一丁で歩いたりしているが、それはそれ。
　今日も“可愛い自分”であることを姿見で確認してから、部屋を出る。
　居間に漂う煙草の匂いに眉を寄せて、開口一言言い放つ。

「ウォルおじ様！！　朝の一本が美味しいのは解るけれど、外で吸ってくれないかしら！！」




04/とある朝
　

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