ENo.0252　クドラト・ジャファー

妙な女に懐かれた。


事の始まりはこの領域に来て間もない頃酒場に立ち寄った時だ。
勿論こんな所にある酒場が都市部の来店客を選ぶそれと同様なはずも無く、
荒くれ共が集うような場末と評するのも憚るものだが、
今は呑めれば品にも能にも欠けた奴等の喧騒など構う事でもない。

そんな態度か身なりかノリが悪いかスカしたかした顔が気に入らなかったのか、
先客の一団がカウンターに掛けていた俺に絡んできた。
何を言っていたのかは然程覚えていない、興味もない。
恐らくそれは伝わったのだろう。
無視を続ける俺の前で、手近な瓶を叩き割り、構え、突き付けだす。

ニヤついた顔。
知性の無い下劣な嗤い声。
自身の圧倒的優位性を疑いもしない「勘違いした」目。


…………苛々する。

相応の罰、という訳ではないが礼として最も手近にいた男の手首を砕き取り上げた瓶を手の平に見舞い、
襟首を掴みながら殴りつける。何度も。何度も。
頭の回転が遅いのか、漸く理解したらしく少しの間を置き周囲の奴等も飛び掛かってきた。

そこからは　というか正確には一人目以降は　処理感覚しかなく大して憶えてもいないが、
結果として辛うじて原形をとどめるカウンターと酒瓶のみがここが酒場「だった」事を推測出来るようにはなった。


そんな所にその女――小夜は現れ、惨状を解してか
目元は見えないものの「とても嬉しそうな」顔をして言葉を発した。

　『はジめまシて。素敵な御方。　――結婚シてくだサイ』


頭の螺子の外れた、妙な女だった。

ユニオン活動：格闘×5