ENo.0338　ドランカー

【１：ROCINANTE】
機体の改修工事は大掛かりなものとなった。

何せ、古い。
耐用期間を過ぎたパーツを一つ一つ交換していく毎に、自分の時代が遠く過ぎ去ったものだと痛感する。

《交換 非推奨 購入 を お勧め します》

女性の声――それも単語を繋ぎ合せた抑揚のない――が機体から響く。

「黙ってろ、ポンコツ」

煩わしげに吐き捨てたが、それが誰に向いたものか男――ドランカーには分からなかった。


”これでなくてはいけない”と思う。


今の自分の技術も、身体も、当時には及ばない。
その上で、骨董品のような機体を使うのは自殺行為に等しいと理解していても、その声を否定しきれない。

過去の亡霊に憑かれたなと思う。永くないなと思う。しかし――悪くないと思う。

マーカスは手段を選ぶほど素人ではないだろとは言った。

ああ、その通りだ。だがそれは”こいつを前提として”だ。

これから破壊しにいく残像の元と同じだけ、こいつと一緒に居た。半身と言っていい。

だからこそ、引導を渡すのはこいつが相応しい。

だからこそ――死に場所はこいつが相応しい。


作業の手を止めて愛機を見上げる。すると、

《照合完了 イカロス鋼機 IW04-PEGASUS フレーム と 特定》

そう、先程の声がした。舌打ちをする。

《人 が 操縦する には 難しい ウォーハイドラ です》

「ポンコツには、そうだろうな」

《今 の 貴方 には？》

再度舌打ち――全く生意気なAIだ。痛いところを突く。


この機体は反重力ユニットの無い時代に造られた、『地を飛び、天を駆ける』がコンセプトの空陸両用の高性能機だ。

ただし、唯一にして致命的な欠点として、繊細な姿勢制御を必要とする。
機銃の弾一つで撃墜される事も珍しくなく、早すぎる機体として埋もれて行った。


「今の俺の心配は、義手の代わりにやってきたお前が俺の片腕程度には役に立つのか、だ」

《肯定 残像領域内 で 酔いつぶれていても 問題 ありません》


――ああ、全く生意気な。それじゃ意味が無い。ウォーハイドラってのは自分で操縦してこそだ。


なんて、若手ライダーのような事を思いながら、皮肉気に返した。


「馬鹿言え、酔っ払いにも自分の足でふらつく権利がある」

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。


（※暫定ユニオンです。消すかどうかは折り見て考えます）