ENo.0389　ムジカ・ネネウ

コンガラサマはその独特な見た目は別として、操作方法に変わったところはない。アセンブルに口出しされることはなく、俺好みの軽量機でまとまっている。
変わったことがあるとすれば、タンデム搭乗するムジカの存在だ。彼女はどういうわけかレーダーやセンサーのような役割を果たし、知覚し得ないものを知覚してオペレーティングする。そのおかげで回避できたことや、霧の向こうの敵を発見できたことも少なくはない。
「なあムジカ、なんで遠くのことまで分かるんですか？」
女性、っぽい言葉を努めて話す。そうしろ、という具体的な指示があったわけではないし、地声が男なのだから無理があるものの、しかしできる限りはしようという考えでそうしていた。
「あなたにいちいち教える義理などありませんが」
「まあ、いいでしょう。
　厳密に言えばわたしがわかるわけではありません。
　夜叉には霧の向こうを見通す力を持ちます。
　しかしヒトはそれを共有することができません。
　修業を経た巫女は、その知覚を合一することが可能なのです。」
「夜叉……っていうのはウォーハイドラのことですよね。
　巫女、っていうのは、私の前任者もその知覚を合一？　出来たんですか？」
その修行やら巫女やらについて、俺はあまり詳しくないし、聞いても仕方がないだろう。俺も一応巫女のかっこうをしてはいるが、その修行とやらは受けていない。俺は単なるメカニックで、単なるハイドラ乗りだ。
「…………」
ムジカはまばたきを二度するだけだった。表情を変えないまま、口を開く。
「ほら、リソスフェア要塞が近づいてきましたよ。
　まだあなたには見えない距離ですか？」
「肉眼では。レーダーからするとあと800mですね。低速移動に切り替えて、配置につきます」
前任者の話は、どうもしたくはないらしい。俺で満足してくれるなら、それで一向に構いやしないが。

全員がハイドラ（夜叉）に携わる宗教団体。
辺境にコミュニティが存在し、出身者は基本的にいずれもがネネウを名乗る。
教義は他ハイドラの一切の破壊と無力化。