ENo.0134　ギルデンロウ

【X=1】
　ヨハンは全てを見通していた。
チームに勝利を運ぶ者――《Carry》と呼ばれたのは俺だったが、俺は奴を《GameMaker》と呼んだ。
　奴は優秀なプレイヤーだったが、それ以上に司令塔であり、参謀であり、マネージャーですらあった。
　EGA――俺たちのゲーミングチーム――が、国王から栄誉メダルと賞状を贈られたとき、奴と他のチームメイトは俺がメダルを持つべきだと言った。
しかし、真にそれに相応しいのは俺ではなくヨハンだった。
けっきょく奴は受け取らず、俺はそのメダルを貴金属店に流した。
　俺は間違いなく奴を尊敬していた。
誰か他人を尊敬したのは――そもそも好ましいと思えたのはそれが初めてで、そしてそれが最後だった。

【リソスフェア要塞攻略戦】
　企業連から送られてきた情報によると、けっきょくまたハイドラは敵にないらしい。
しかしそれでも、今までで一番マシな戦場であろうと思う。
　ルカの動きは良くなってきてはいる。所詮はnoobに過ぎないが、馬鹿ではない。
俺の話を聞くつもりがあるのかないのかは分かっていない。
ただ少なくとも俺の支援に回るだけの働きはしてくれてはいるし、その点だけでも相対的に優秀であるといえる。というのは、俺が戦っているロケーションは戦場の最重要地点のはずだからだ。
　霧笛の塔からの仲介人が代わったが、特に問題はない。前任の女はじきに退職するだとか言っていたし、たぶんただそれだけだろう。

『ハイドラ乗りは戦場にある限り、死と隣り合わせの存在だ。
実体剣やレーザーブレードなどを機体に握らせ、
火器を目前に対面して戦う格闘機乗りなら、死と重ね合わせの存在といっていい。
　敵の中に孤立しながら、斬り開いた敵機の残骸の奥に、同じく剣を振るう味方機を識別することがある。
会話がなくとも、そのような面子を幾度も見つけていると、僅かな連帯感を抱くものだ。
遅かれ早かれ、奴らの姿は見ないようになる。
「奴は霧になったんだ」感傷混じりに言う奴がいた。
俺もいつかはそうなるのかもしれない。しかし俺たちは剣を握ることをやめない。
名誉のため。生きてる実感のため。病的な矜持のため。あるいは死ぬために、剣を握らなくてはならない。
　……そして敵陣の中で、また新しい顔を見るようになる。“物好き”は次々やってくるのさ。
だって、残像領域はそもそも“物好き”のための場所だろ？』
　――そんなことを言ってたアイツは、つい昨日で、霧になったよ。