ENo.0367　エリオット＝ウツロギ

「ああ、あの嬢ちゃん死んだのか」

　普段は狂ったように騒がしい酒場が、たった一時、しんと静まり返る。

「そりゃ死ぬだろ」「企業連を敵に回したんだ」「死ぬな」「死ぬさ」「死んじまうよなあ……」
「はっはは！ 情勢の読めねえ女だな！ そりゃ殺されて当然―――」

「黙れ」

　再びの沈黙。笑いを凍りつかせたのは若いハイドラライダーだった。

「よお、若造。賭けのタネでもねえ人死にをバカにして、笑い飛ばして、何になる」
「な、なんだァ？ エリオットさんよ、アンタ、まさかそんなタマか？ 『命は大切に』なんてお題目唱えるような？」
「命なんざクソほどの価値もねえよ。大切なものは、死に様だ」

　誰も口を挟まない。

「お前も俺も、等しくクソッタレだ。ここにいるような奴らはみぃーーーんな、死ぬべきときに死ねなかった死に損ないだ。
　死に損ないがくたばるのは、笑える。賭けて勝ってりゃ、更に笑えるさ。
　だから、そうじゃないときには、笑わない。死ぬべきときに死んだ奴ァ、英雄よ」
「英雄に乾杯！」

　無言で皆が盃を掲げ、そして、また何事もなかったかのように騒がしい酒場が戻ってくる。
　ブツブツと何事かを口籠る若いハイドラライダーを尻目に、俺も盃を空ける。
　死ぬべきときに死んだ奴は英雄だ。

　そして、俺は英雄が大嫌いだ。

残像領域の端、無法者やハイドラライダーの集う酒場。
人の生き死にを賭けのタネに、今晩も乱痴気騒ぎが繰り広げられている。
合成アルコールと正体不明のジャーキーが売れ筋。
まともな人間は寄り付こうともしないだろう。

美女がここに留まりたいと告げたことで、下卑た期待に満ちた口笛と、下品極まる野次が酒場を満たした。