ENo.0389　ムジカ・ネネウ

「本日の議題、はわかっていますね」

埃っぽいガレージの即席机で、書類を叩いて揃える。

「前回の不十分な整備による動作不良。
　今回の振るわない戦果。
　コンガラサマはあなたのために設えられた棺ではありませんよ」
「前回については……私のせいとしか言いようがない……ですね。
　今回の戦果も、確かに、守りに入りすぎた結果であることは、確か、です」

口答えでもしてくれれば少しは面白かっただろうが、クリスという男は素直に非を認めた。
それにしてもこの男は搭乗していないときでも装束を着ているし半端な敬語を維持している。
わたしの機嫌を伺いたいのか、変態なのか。

「ただし、これ以上の戦果を求めるには――」
「噴霧量が向上する義装（アセンブル）に切り替える必要がある、と？」

言いよどむその先を口にする。
仮にも数回の出撃を生き延びた彼だ。乗り手としての資格は、疑うべくもない。
もちろんその言葉も。

「そうですね。噴霧量、機動力を一層強化し――
　つまり、より防御面をそぎ落とした攻撃機に特化する必要があります。
　わずかな誤りが、命取りになるような……」
「面白そうですね。それで行きましょう。
　いつも通り手筈は任せましたよ」

わたしは返答に時間をかけなかった。

「それでも……死ぬつもりはないですからね」
「そうですね。死を先延ばしにしたいなら、精を出すことです」

彼は背中を向けて整備に戻る。
唇に指で触れる。
久方ぶりにわたしは笑みの表情を作っていることに気づいた。

全員がハイドラ（夜叉）に携わる宗教団体。
辺境にコミュニティが存在し、出身者は基本的にいずれもがネネウを名乗る。
教義は他ハイドラの一切の破壊と無力化。