ENo.0338　ドランカー

【4：SYS-MARY】
傷ついた機体を前に、男――ドランカーは酒瓶を呷った。

大した傷ではなかった。だが、僅かな傷が機動の安定性を大きく損なわせる――そういう機体であった。


不意に、スピーカーからノイズが流れ出す。
しかしいくら待てども、そこからそれ以外が流れる事はなく、

「何か言いたい事があるのか、ポンコツ」

ドランカーは煩わしそうに声を投げつけると、ようやく電子音声が返ってきた。

《強制後退 の 準備 は 整って ました》

「ああ？」

《貴方 は そのまま 死ぬ つもり だと 想定 して いました》

「チッ、マーカスの野郎――」

ドランカーは、その場に居ない男を忌々しげに睨む。
だが――分かっていた事だ。
あの男が頑なに義手を売らなかったのは、何も値段だけではない。

「いい年になっても、いつまでも青臭い奴だ」

《否定 私 は プログラム により 自己 の 保全 を 優先 して います》

「ふん、なんだっていい。
だが、普段言いたい放題してくれるお前が、随分躊躇ったじゃないか」

その言葉にはノイズが返ってくるのみ。
なんと人間臭い反応だと、鼻で笑う。


「……死ぬかよ。まだ飲む酒があるんだ、勿体無くって寝てられるか」

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。


（※暫定ユニオンです。消すかどうかは折り見て考えます）