ENo.0295　リゼット・フォーレ

企業闘争でもらったカタログギフトをパラパラとめくる。
ろくなもんがない。こんなところまでケチってるらしい。

まあ、いいか。

カタログを放り投げて、天井を仰ぐ。ガレージのがらんとした、高い天井。
ここは、声がよく響く。歌うのには楽しい場所だ。聞く人はいないけれども。
ママもガレージで歌ったりしたろうか。しただろうな。

ママは歌うのが心底好きなんだろうと思う。だから、あんなにきれいな声が出る。
あたしだって歌うのは好きだけれど、きっとママには敵わない。
あたしの喉は、残念ながら、ママには遠く及ばないのだ。

年季、というのとも違う。
言ってみれば、才能、みたいなもの。

あたしはなんにしても凡人だ。
ママはたぶん、階段の一段も二段も上にいる。もしかしたら、それ以上。
インセイリーに言わせれば、ママはライダーとしても優秀だったらしいし。

こういうのも、マザー・コンプレックスと言うのだろうか。
離れてみて、よくママのことを考えるようになった。それが悔しい。

あたしはずっとママに守られていた。それは認める。
でも、あたしだってもう18で、そればっかりじゃダメだと思って、ここに来て。
けど結局は、ママのことを考えている。

ひとり立ちするには、たぶん、もっとずっと時間がかかるんだろう。
あたしはまだまだガキだ。とっても腹立たしいことに。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

今日はマスターが不在のようだ。