ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『UMAだかなんだか知らないハイドラ？』。
『撃ったらどんな感触がするんだろうなァ』。
『愉しみに違いねエ』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。

『また賭けるか？』。
『あのクソハゲが死ぬに三万』。
『おいおい、幾ら前回全く活躍してなかったからってよ？』。
『ダミット。黙ってろ』。

　聞いた男は肩を竦める気配。吹っかけてきた方の男は、いかにも不機嫌な声色であった。
　いつもより強めに瓶底で机上を叩く音がする。
　何か相手と一悶着あったのは察したが、それは本人の問題であり他の誰の問題でもないのだ。

『俺は情勢にとんと疎いけどよ、旦那が“虫の知らせ”？っていうの？　なんか言ってたぜ』。
『おう、旦那もか。あいつがおっ死ンでくれるのを察知してくれたようだなァ』。
『いや……もっと大事みたいな話しをしてたが』。
『はあ』。

　――急に生返事を返す。
　男は、目先の小事程度にしか興味関心がない。
　この世界を取り巻く大きく深い霧のように、何か見えない所で不穏が足音を忍ばせて近づいてきたとしても、ここに居る連中ですら殆どが気にも留めないだろう。
　それでも店員は何か、言いたそうにしていたのを一部の客は気にしている。それだけ“彼”の話には真実味があるのだ。

『つってもよォ、旦那も現役引退気味の老兵っぽいし。いざつったらここに居る奴らもトンズラだろ』。
『ま、その時は俺もさっさと逃げるな』。
『さーてどこに？』。
『さあ？　最悪地獄にでも逃げりゃいいだろ』。

　どうせこの世も生き地獄であるのなら、どこへ行こうと変わりない。
　この世界に希望を見出す人間は多かれど、場末の腐った飲んだくれや貧乏人は、所詮行く宛は決まっているのだ。