ENo.0295　リゼット・フォーレ

ノクターンが墜ちた。

補足された警告音の直後、棺を揺らす衝撃。
鳴り止まないビーコンが、かろうじて息を繋いだハイドラの喘鳴のようだった。
操縦棺の機能はなんとか生きていた。
明滅するスイッチに指を走らせ、幾つかの機能をオフにする。
帰投地点まではなんとか保つだろう、ということだけがわかった。

インセイリーの援護で戦線を離脱する。

死ななかったのは運が良かった。
あの、装甲を一発で引き剥がす直撃。

途中離脱したライダーにも、報酬は出る。ただ淡々と。坦々と。
いっそ報酬などでなければいいのに、とちらりと思った。
まあ、実際的ではないことぐらいわかっている。
報酬が出なければ、整備費用でこっちは火の車だ。

メンテに入ったノクターンを見上げて、溜息をつく。

あたしはどこまでいっても凡人だった。
つまらないミスもする。アセンブルも下手くそだ。
あたしには才能というものがないんじゃないかと、最近とみに思う。

少なくとも、ハイドラライダーが天職でないことだけは確かだ。
これだけ戦場にいれば、そのくらい自分でもわかる。
ただ、離れられない。どうしてか。

焼け焦げたノクターンは、あたしの憧れのその姿に見えた。
まだ立っている。ぼろぼろになりながら。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

紅色の髪の少女がカウンターでぼうっとしている。