ENo.0378　フレイド・コークス

　ラキア・パラミダスの精神状態を危惧すべきだろうか。
最近は戦功が伸び悩んでいることや、疲労が重なった所為だろうか、ややラキアの精神状態は不安定なように感じる。
僚機を組んだ時点で既に死を恐れぬ態度、他人への過度の攻撃性は認められたが、それは許容出来る範囲で有ったし、戦功を立てるには良い面も有ったので看過していたのだが。

　死神と、彼女は言った。

　ラキア自身にも告げたことだが私は凄腕のハッカーでもないし、ましてや名探偵でもない。
確かに事前に彼女の経歴を調べ上げたが、それはあくまでデータとして残された表面的なものに過ぎないのだ。
データは客観的な事実として重要であるが、その事実が人にとってどんな意味を持つのかまでは読み取れない。

「…弟の死、か。」

　その出来事は把握していたが、ラキアにとっては私の予想を超えて影響を与えていたらしい。
肉親の死を想像できない私の読みが外れたことになるのだろう。
クレミア・カルナ。
兄を失った彼女が私を責め立てたあの時の記憶を思い出す。

「肉親の死の影響だけだろうか？」

　兄の死を経て暫く経ち落ち着いたのであろう、クレミアは謝罪のメールを送って来た。
深い哀しみも、人の記憶は時と共に薄れ和らげる…のであろう。
それを考えると、ラキアのあの態度は尾を引き過ぎているのではないだろうか？

「……。
　ラキアを庇う形で死んだのか。」

　詳しく当時の資料を検索した結果、ラキアの弟は、ラキアを庇う形で死んだのだと分かった。
弟だけではない、彼女と共に戦った者達も幾人か度重なる戦闘で死んでいるようだ。

「それで死神、か？」

　そう噂する者が居るのか、それとも自分でそう思い込んだか。

「…ともあれ、あまり無茶をさせ過ぎないように釘を刺さねばならない。」

　まだ死ぬには早過ぎるぞ、ラキア・パラミダス。

………
……
…

「マーテル・ヤシャゴ、か。」

　取引の相手の名前が何か引っ掛かったので調べたところ、彼女はどうやら以前の、ハイドラ大隊の壊滅事件の生き残りだったらしい。

「…まさかとは思うが、念の為に確認しておくか。」

　悪夢の霧

　そんな者が居る筈がないのだ。
いや、もし居たとしても…それならば、マーテルは生きていない筈なのだ。

サイボーグ医学・ロボット工学の分野で名を売る中堅企業。
高い技術力を有した製品は評判高いが、軍事兵器市場への参入には消極的。
「ありふれた製品を、高品質で。」をモットーに掲げている。