ENo.0493　陶玉

―ところどころ朽ちて砕けたコンクリートの壁に、ほのかな蛍光色の光が揺れる。
その起点には少年が背中を丸めて座り込み、そこから真っ黒な影が伸びている。

「…………。」

彼の手元には、薄明るく蛍光色に光る、薄い樹脂の板のようなものが幾つも浮かび、
キーボードの配列を成している。少年はそれを無心に叩いていた。

　　[...Vital_Interlock...]　[set] [...] [0;]

普段なにかと小煩いAIは黙り込み、
幾つもの文字列と数値がモニタを行き来している。

静かな空間に、少年の息遣いと、時折、ちいさな電子音が響く。

(僕が死んだとき。こいつは最寄の公安局に座標を通信するよう設定が為されていた。)
　　(善良な国家を賛する企業の製品、善良な国民の持ち物としては、至極当然の仕様だが。)
　　(……非国民には、この上なく迷惑な呪いでしかない。)
　　(NYへ移った時。僕がどうやっても手を入れられなかったその通報システムを、クリスは簡単に陥落せしめ……。)
(その通信先を彼のP.A.I.S.へと変更したのだった。)
　　(そこを足掛かりに、何度か彼の端末へ嫌がらせのハックを試みた事があったが……。)
　　(こちらに来てからこの方法は試していなかった。この環境だ。特にバイタルの数値には気を遣っていた。)
　　(だからか、それを停止させてまで行う、この行為に意識が向かなかったのだろうとも思う。だけれど……)

「宾果。死んでみるもんだな。」
「これで、彼の直接座標とまでは行かずとも、距離や動向くらいは…………」



「什么？」