ENo.0204　漆生

　ナナキも大分落ち着きを取り戻したようだ。他愛のない話で笑顔を見せてくれるようにもなった。少々ぎこちないが、十分であった。

　モリオンも、嘗ては多くのものを失った。
　人間からの信頼に始まり、記憶、腕力、拠り所···だが拾われてからは、多くの者に携わり、充実した時を過ごし、新たな力を得て、そして最高の家庭と職場に恵まれた。
　ナナキも、そうであってほしい。帰ったら抱き締めてやりたいとは言ったものの、互いの組織の都合上それを叶えるのは難しいだろう。
　会うだけなら叶うかもしれないが、罪を問われないかと言われればまた別の話となる。ナナキとモリオンは今、危うい立ち位置にいる。

「情報が···欲しいな。記憶、記録···」

　巧く事を進められるような打開策はまだありそうな気はする。

　フォーダイト、奴は本部の上役に絶対服従でその忠誠度は高く評価を受けている。奴を丸め込める要素があれば···だが

「今、最高に不機嫌だろうな···」

　未だにあの道化のような女に翻弄されているのだ。

「敵意がないことを示すには···うーむ···」

『めんどくさいな』と言いそうになった口をぐっとつぐむ。その面倒臭いことを今までナナキ請け負い続けてきた。それを自分が解消してやるべく奮起してやって来たのだ。

　敵は敵、味方は味方と二極化していた思想の根本から建て直す必要がありそうだ。面倒だが