ENo.0071　パアム・ライザ

娘は、ライザ研究員は、あれからもずっとナノマシン群との交信を続けているらしい。

ナノマシン群は栄養源さえあれば如何様にも増殖し、その規模を広げていく。
つまり、最終的には巨大な脳となり、全ての生物を超越した生命体となり得るのではないか。
それは、到底人の手に扱えるものではない。そのような危惧が上層部より通達された。

処分、及びリセット。

それが、上層部の出した結論であった。


「処分……？」


ああ、予感はしていた。知性を持ってしまったと、交信に成功してしまったと報告を受けたときから。

"彼"は、もうそこにいるのだ。ただのナノマシンでなく、機械でなく。
それは、パアムだけでない。他の研究員も、そして他の誰でもない、私にとっても。
一から作り上げた、いや、産み出した彼は、私達の子供と言っても良かった。

だからこそ、彼を処分するというのは、あまりに辛く、あまりに残酷な決定だった。

私は、眼の前で放心する娘に対して、顔を向ける事ができなかった。


彼を――プレディと名付けられた彼を用いた二足歩行のパワードスーツは、ほぼ完成していた。
プレディを機体にとりつかせ、操縦者に脊髄直結を行わせる。
フレーム、システム、エンジン、そして、バッテリーとプレディ用の燃料だけを有し、可能な限り軽量化に成功したそれは、
既にロボットではなく、鋼でできた巨人とも言える生命体だった。

研究室のガレージで見上げるプレディの姿は、幼い頃から夢想した、憧れた、ロボットの姿そのものだった。
夢は、叶ったのだ。
叶ったが、故に危険すぎた。


翌月。プレディは、自ら休眠状態へ入り、プロジェクトは一定の成果を上げた上で、凍結処分となった。



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「あとすこし、ですか。」

モニターに流れる、チームメイト達のチャットの嵐を横目に見ながら、甘味を一口ほおばる。
先週から組んだ僚機の方はどうも不思議なところのある人で、お近づきの印にたい焼きを寄越す辺り、掴みどころがないというか、なんというか。

コロッセオでの戦いを選んだのは、単なる腕試し以上の物はない。
ただ、ランカーと呼ばれる人たちと、今の自分の戦いを比べたかっただけなのだ。

……それが、ここまで大事になるとは、全く思っていなかったけれど。

抽選で戦場が決定するやいなや、まずランカーの人が周囲に呼びかけ、チャットルームを作り、メンバーを集めた。

ランカーというからにはさぞや肩身の狭い思いをするかと覚悟していってみれば、何の事はない。

そこにいたのはただの人であり、意思疎通のできる相手だった。

さらに言えば、私と同じように肩身が狭いと思っていた人もいるようで、なんだか少し安心できた。

作戦を立て、アセンをすりあわせ、各機の役割をはっきりとさせていく。

私の役割は敵の撹乱と、新システムの霧を晴らし、装甲を削ること。


時間は間近となり、各人、様々な意気込みを見せている。
ランカー同士が、それも一位と二位が激突する戦場とあって、コロッセオに参加しない人々からの注目度も高まっているそうだ。

そんな中、私は単なる賑やかしの一人となるだろうけれど。
それでも、どこまで通用するのか、とても楽しみだ。

「研究って何を研究するんだ……？」

「……貴方を利用した兵装とか」

「勘弁してくれ」