ENo.0134　ギルデンロウ

＞EU server
＞以下のプレイヤーからのフレンドリクエストが届いています
＞：King of loss（最近ランク戦でマッチングしたプレイヤー）

【King of Loss】:よお、ナイスファイト！
：お前のお陰でいい試合が出来たと思うよ
【not be】:負けたけどね
【King of Loss】：そりゃまあね
：序盤から不利を作られてたから
：取り戻せない差ではなかったけど
：味方の心が折れてた
：surrender vote出すまでが早すぎるね
【not be】:仕方ない
敗色が濃厚なら次のゲームに行きたくもなる
【King of Loss】:でもお前は諦めてなかったよね
【not be】:そうかな
【King of Loss】：最後の本陣前での5v5
：オレに言わせればアレは5v4のタイミングだったんだけど
：あの時、オレの仕掛けに合わせて飛び込んだのはお前だけ
：しかもやり方はオレの期待と完全に同じ
【not be】：あなたがそうするなら、あれが一番いいと思った
【King of Loss】：それが正解なんだよ
：他の奴らが合わせれば勝てた
：いや、あれだけで勝てたとは言わないけど、チャンスは作れた
【not be】:そうだろうなと思った
【King of Loss】:ほう？
【not be】:意味のあることしかしないプレイヤーだと思った
：あなたが
【King of Loss】:嬉しいね
：その通り。オレはいつも正解しか採らない
：どのプロチームのどの選手やコーチよりもオレはこのゲームを理解してる
：マジでな
：not be、お前、戦績見る限りだと、三ヶ月前の履歴までしかないね。それサブ垢？
【not be】:いや
【King of Loss】:じゃあ三ヶ月でダイアまで上がったってこと？
：天才かよ
：もうすぐマスターランクじゃん
【not be】:他のMOBAゲーはやってたよ
【King of Loss】:そりゃそうだろ
:それでここまでやられてたまるかよｗ
:お前がホントにパソコン触りたてのガキだったらｗ
【not be】:ガキなのはそうだけど
【King of Loss】:やっぱり？
：そんなプレイヤーネームにするヤツはメタラーかガキしかいねえからな
：ちなみにオレはメタラー
【not be】:そう
【King of Loss】:そう
：まあ何
：お前のこと気に入ったからさ
：こんどduo組んで遊ぼうぜ
：まあそういうことで。ガキがあんまし夜更かしすんなよ
：じゃあな！

　……それから、『not be』と、『King of Loss』は、ランク戦を一緒にするようになった。
　『King of Loss』は多忙な様子で、ログインする事もあまりなかったが、たまにduoする時の勝率はかなり高かった。
そもそも、試合に負けた記憶が一つもない。全勝だったかもしれない。
　それから二ヶ月も経つ頃には、俺も『King of Loss』もマスターどころか、その上のチャレンジャーランクに到達していた。

【King of Loss】:まあ、EUのラダーだと、１位もオレなんだけどね
：これはサブ垢
【not be】:そうなんだ
【King of Loss】:凄いだろ
【not be】:いや
【King of Loss】:は？
：嘘じゃねーぞ
【not be】:そういう事じゃなくて
：だとしても全然おかしくないと思うから
：あなたより正しくプレイしている人がいないから
：このランク帯でも
【King of Loss】：ｗｗｗｗ
：なるほどね
：EUは実際ザコばっかだからな
：それにしてもオレは正しすぎるが
：でもそれは、お前もだとオレは思う
【not be】:そうかな
【King of Loss】：そうなんだよ
：オレはいつも正しいからな
：実はオレ、プロプレイヤーなんだよ
：このゲームの
【not be】:プロ？
【King of Loss】：あー
：オレはゲームで金を稼いでるんだよ
：『EGA』っつーチーム
：スウェーデンだぜ！
：まあ弱えけどな
【not be】:ゲームでお金が稼げるの？
【King of Loss】：稼げるんだよ
：強ければね
：お前さ
：ウチのチーム、近々再編されるんだよ
【not be】:うん
【King of Loss】：来てみない？
：オレがマネージャーに口を利くよ
：ゲーミングハウスでオレと一緒に練習しよう
：お前ならすぐレギュラーで試合に出れる
【not be】:うーん
【King of Loss】：このゲームやってて面白いか？
：ソロキューなんてお守りみたいなもんだ
：いやオレはそれも楽しんでるけどｗ
：ウチのチームも弱小つってもプロだ
：オレほどじゃないけど、猿どもよりはよっぽどマトモだ
：プロのチーム戦のほうが、お前向けだと思う
【not be】:でも、そんなことをして良いのかわからない
：俺が
【King of Loss】：オーケー
：いやノットオーケー
：not be、お前は本来自由なんだ
：宛がわられたその部屋で永久に時間を潰す必要なんてない
：面倒なことはオレが相談に乗るし、何でもやってやる
：だからオレのトコロに来い
：お前の存在が、そのまま無かったことになるのが惜しい
：本来これはおまえ自身が思うべき事だぞ
：優しいオレ様からの出血大サービスだ
【not be】:うん
：わかった
：お願いします
【King of Loss】：決まりでいいな
：not be、お前さ、名前はなんていうの？
：俺はヨハン
：ヨハン・ギルデンロウだ
：今後ともヨロシク！

***

『来てくれるだろうと思ってたよ』
通信を開くと、軽薄そうなガラ声の音声データがヘッドフォンに送られてきた。
ブライトネイルのリー・イン。ハイドラ大隊の下らないチンピラ。
「気まぐれだ。オマエのデートの誘いに乗ったわけじゃねえよ、インセイン」
『つれないな。あるいは、ジョット・ノアイに煽られでもしたのか？』
「いつでも通信を切るぞ。オマエが下らねえ話を続けるつもりだってならな」
『悪いね。まあ、浮かれるのも大目に見てくれ。楽しくてしかたないんでな』
　楽しいね。それはそうなんだろう。インセインのような猿にとっては、このコロッセオが。
『するんだろ？打ち合わせを。折角の場があるんだからな。『プロプレイヤー』の戦術を教えてくれよ』
「お前らが本気ならな」
　そうなら、幾らでも見せてやる。
俺たちがずっとやってきたやり方、ギルデンロウの戦い方を。

『ハイドラ乗りは戦場にある限り、死と隣り合わせの存在だ。
実体剣やレーザーブレードなどを機体に握らせ、
火器を目前に対面して戦う格闘機乗りなら、死と重ね合わせの存在といっていい。
　敵の中に孤立しながら、斬り開いた敵機の残骸の奥に、同じく剣を振るう味方機を識別することがある。
会話がなくとも、そのような面子を幾度も見つけていると、僅かな連帯感を抱くものだ。
遅かれ早かれ、奴らの姿は見ないようになる。
「奴は霧になったんだ」感傷混じりに言う奴がいた。
俺もいつかはそうなるのかもしれない。しかし俺たちは剣を握ることをやめない。
名誉のため。生きてる実感のため。病的な矜持のため。あるいは死ぬために、剣を握らなくてはならない。
　……そして敵陣の中で、また新しい顔を見るようになる。“物好き”は次々やってくるのさ。
だって、残像領域はそもそも“物好き”のための場所だろ？』
　――そんなことを言ってたアイツは、つい昨日で、霧になったよ。