ENo.0261　Solitus

「……そういえば、テイ」
「うん？何、どうかしたの、ソナ」

いつもの出撃前の時間。
すっかり慣れた様子でソリトゥスのメンテナンスをするカナエは、ふとソーナに声をかけられ、手を止めて振り返った。
はじめて残像領域に足を踏み入れ、ソリトゥスを見つけたときは慣れ親しんだ機械たちとはまた違った仕組みやパーツに手間取ったりしたが、今ではすっかり見慣れ、扱うことができるようになっている。
最も、これでもまだソリトゥスのことをよくわかっていない部分は多いのだろうが――共に戦場を駆ける機体のことを、メンテナンスを繰り返すたびに知ることができているというのはなんだか楽しいし、嬉しくなる。
カナエの背後で今まで作ってきたパーツや、送られてきた素材を眺めていたらしいソーナはパーツや材料からカナエへ視線を移し、こてりと首を傾げる。

「……テイは、ランページ・ユニット……試してみる気は、あるの？」

彼女の問いかけを聞いたカナエは記憶を探る。
ランページ・ユニット――確かあのボイスメールにもその名前が出ていた。
カナエの記憶が正しければ、あのボイスメールの中では水粒爆縮投射装置とも呼ばれていたはずだ。
新しい兵器と聞いて何度かボイスメールを再生してその仕組みも聞いたが、なかなかに強力そうな兵器だという印象がある――霧粒子を圧縮するなんて技術は絡繰世界にはなかったから、特に。
メンテナンスのために一時的に接続を切り、物言わぬ状態になっているソリトゥスを少しの間見つめてから、カナエは以前作るだけ作ったエンジンを引っ張り出し、ソリトゥスの心臓部である箇所に積み込んだ。
チューブを繋げていきながら、カナエはソーナに答えるために口を開く。

「興味はあるけど、ソリトゥスに使えるかどうかわからないしなぁ……使えそうだったら一回試してみるのもいいかもしれないね」
「……ソリトゥスが使えたら、かぁ……」
「元々ソリトゥスは索敵機だから火力はそんなに期待できないだろうけどね。……珍しいね、ソナが新しいパーツに興味を持つなんて」

全てのチューブを繋げ終え、しっかりと外装を取り付けてから改めてソーナと向かい合う。
今の今まで、ソーナは新しいパーツにもそれほど強い興味を示さなかった。
けれど、今回はランページ・ユニットにある程度の興味を示していて――なるほど、どうやら残像領域での生活は少しずつだが彼女に何らかの変化を与えているらしい。

「……なんだか、気になったから……ソリトゥスも、少しずつだけど、強くなったほうが生き残りやすいだろうし……」
「ま、試せそうだったら試してみることにしようよ？とりあえず、そろそろ時間だから戦場に行こうぜ」

一言、そういってからソーナの頭をわしわしと撫でる。
微かに笑みを浮かべた相方の様子に、カナエの表情にも微かな笑みが浮かんだ。