ENo.0534　ジル・スチュアート

・・・

―性能評価試験任務、当日―

余裕をもって起き、軽く朝食をとってから、出撃準備をはじめる。
今日はメルサリアが持ちかけてきた、実験機と戦闘になるらしい。
……正直、メフィルクライアだけじゃなくて
メルサリアも信用に足るかはわからない。
だけど、私たちは従うしかないんだろう。

片付けなどを済ませて、出撃のために整備室へ向かう。
今回の相手は、性能がわからない相手が2種もいる。
……それも、バイオクイーンなんて、”あれ”に似た名前のやつまで。
そんな戦場、不安はある、いくらでも、やまほど。
それでも――

それを振り切るように、コックピットに乗り込む。
……いつもと違う、操縦棺。
私は、少し落ち着かない感じはするものの
今のZukunftはむしろ、心地よく感じているように見える。

今回の操縦棺は、自分のじゃなくて
準備が間に合わなくて、借りたもの。

それも、今までのZukunftとはまったく別の……
機動型向けへ改良が施されたもの。
どうしてこのタイミングで、今までと真逆の型へと変更したのか。

自分でも、その理由はあんまりわからない。
偶然マーケットに良いパーツが並んでいたから、というのもあるとは思う
でも、もしかしたら……
今までとまったく違うアセンブルですらも戦ってみせる
コロッセオの人たちに……中てられてしまったのかもしれない。
どんな環境にも適応しうる自信が、得られるのではないか、と。

気付けば操縦棺の中で、時間ぎりぎりまでコロッセオの試合データを再生していた。

「……もう、いかなきゃ」

―Zukunft、通常モードで起動―

いつものように呟くと、ウォーハイドラの瞳がおとなしげに青く灯り
いつものように、合流地点までウォーハイドラをゆっくりと走らせる。
その距離は遠くないはずで
特に今回は、機動を重視したアセンブルをしていたのに。
今までの、どのミッションのときよりも、長く感じた。

合流地点に近づくたびに、心臓の音が大きくなっていくのがわかる。
メンバーは万全で、これで全滅するのであれば、もうどうしようもないと思う。
それくらいでも、この感じているものは、不安なのかもしれない。

……向かう途中で、ふと思った

「そういえば……まだ、キミに”爪”をあげてなかったね」

硬質ダガーを代用すれば、それに似た格闘武器は作れるかもしれないと、思いを馳せて
どうして不意にそんなことを思ったかは、きっとこの借り物の操縦棺のせいだと思う。

”Bright Nail”……insanely.

以前マーケットで、何気なく彼から引き受けた代理購入。
彼に渡ったその多脚は増加貯水装甲として利用され、その貯水と濃霧を以って
激戦のコロッセオで、幾度と無く仲間を守った。

困り果てていた私に声をかけ、操縦棺を貸し出すといってくれた。
そのとき、彼は言った。

―お前はいつから死ねると錯覚していた…？―


そうだ、私は。
こんなところでは、死ねない。

合流地点には、みんながもう集まっていた。
今回から僚機となるジンジャーさんに、もう少し早く来るように言われて
みんなで、目標地点へと向かう。


私は……キミに、爪をあげることは出来なかったけれど

でも……

「……Zukunft”未来”も、切り開くBrightNail”輝く爪”も、ともに往くBuddy”仲間”も……全部、ここに在る」

深く、深呼吸をして。
目標地点、目の前の敵を見据えて。

「ウォーハイドラ、Zukunft……通常モードより、コネクトモードへ移行」

ウォーハイドラの瞳が、青から黄色へと転じる。
負けるわけが無いんだ、私たちが。

・・・
本人には、何がどこにあるのか分かっているのかもしれない
しかし、傍から見たそれは
乱雑に散らかっているようにしかみえなかった
・・・