ENo.0378　フレイド・コークス

　指定された時刻丁度にレンド社の対外交渉部門の責任者、ウィリアム・ソナーからの通信が有った。
この通信は遠征に出る前、レンド社より渡された専用通信装置を使ったものである。

「メールでの遣り取りは幾つか交わしましたが、こうして顔を合わせるのはお久しぶりですね。
　貴方とラキア・パラミダスの活躍はとても伝わっていますよ、フレイド・コークス。」
　
「有り難うございます。
　さて、早速ですが本題に入らせて頂きましょう。
　ラキア・パラミダスですが、バイオスフェア要塞での活躍が華々しかったこともあり
　複数取材の申し込みなどが来ているようです。
　現状では私に義理立てして、取材などは控えて貰っている状況ですが。」

「ふむ…。
　確かに、普段の戦績も素晴らしいですが、バイオスフェア要塞では特に華々しかったですからね。
　流石、貴方が見込んだ方だと我々も評価していたところです。」

「それで、そろそろ彼女についてレンド社が何を望んでいるのか。
　本当のことをお聞かせ願えないでしょうか。
　以前にも同じ質問をしましたが、あれから時が経ち、彼女も目立ち始めました。
　レンド社の望みと、彼女の意志に大きな差異が有れば調整をせねばとも思うのですよ。」

「…貴方の言うことはもっともですね。
　それでは、貴方とラキア・パラミダスの活躍に敬意を表する形で内密にお知らせします。
　この事は私と貴方との間だけで納めておいて下さい。
　レンド社の本来の意向としてはまだまだお話しする時期ではないのです。」

「分かりました。
　お聞かせ願う話を誰にも話さぬことをお約束しましょう。」

「レンド社は貴方にこの残存領域の、現在における英雄とも呼べる人材を捜すように依頼しました。
　その結果、貴方はラキア・パラミダスという得難い人材を貴方は発掘しましたね。」

「ええ。」

「そしてお二人は様々な戦場で共に行動されています。
　お二人より更に活躍されている方々も居ますが…
　僚機を組んだ者同士が、揃って大きな戦果を挙げているという視点では、貴方達は他を圧倒されている。
　良いチームワークの結果なのでしょう。」

「……。」

「以前、貴方はラキア・パラミダスを我が社の宣伝に使うのでは、という質問をされましたが、そうではないのです。
　我が社は創設以来、軍事産業には進出しないという内々での理念を固めていましてね。
　もし我が社が軍事産業に進出するのならば、ラキアさんの協力は是非とも乞いたいところですが…。」

「……。」

「少しずつ予想がついてきたのではありませんか？
　我々レンド社が宣伝に使いたい人材を挙げるのならば…そう、今の貴方こそが最適なのです。
　時代の英雄たるラキア・パラミダスの補佐をしたフレイド・コークス。
　彼を死の淵から甦らせたサイボーグ医学、それはレンド社の技術である。
　時が満ちれば、我々は胸を張ってその事実を大いに宣伝します。
　実際、宣伝するまでもなく既に我が社のサイボーグ医学部門の売り上げは徐々に伸びてきているのですよ。」

「つまりは、英雄たる人材自体を求めていたのではなく、それを補佐する私を宣伝材料にしたかったと？」

「英雄たるラキア・パラミダス本人を宣伝広告塔にすると、あまりにも軍事産業の色が付き過ぎますからね。
　その点で、補佐と言う絶妙な位置で…尚且つ、レンド社の技術を体現した貴方はまさにうってつけの人材なのです。
　ラキアさんには申し訳ないのですが、絶妙な立ち位置に貴方が立って貰うための舞台装置扱いと言っても良いかもしれません。」

「……。」

「しかし、それを最初から教えてしまっていては貴方自身に余計なプレッシャーを与えたり
　下手にラキアさんにその事実が伝われば、面倒なことにならないとは限らない。
　なので、秘密とさせて貰っていたのですよ。」

「…驚きました。」

「今日、ここで内密に話させて頂いたのは、今までの結果から貴方達の力量は存分に理解させて頂き
　プレッシャーなどにその腕前は左右されないと判断した為です。」

サイボーグ医学・ロボット工学の分野で名を売る中堅企業。
高い技術力を有した製品は評判高いが、軍事兵器市場への参入には消極的。
「ありふれた製品を、高品質で。」をモットーに掲げている。