ENo.0206　モニカ・フランクリン

　忘れた頃に見る夢は、あまり気分のいいものではない。
　たとえそれが会いたい人だったとしてもだ。



「はあー……」

　買い出し帰りに街を歩く。夏だろうとお構いなしに霧が立ち込めるこの残像領域は、夏だろうとお構いなしに気が塞ぐのを止めてくれない。
　あんまり深く考えて悩むタイプではないんだけど、まあこういう時もあるし、せめて空とか見上げてこう明るくなりたいもんだけど、まあ霧は霧。
　ジャンク街とあんまり雰囲気は変わらないと思ってはいるんだけど、だからそれなりに住みやすく暮らしやすく生きてはいるんだけど、こういう時は恨めしい。仕方ないけど。
　どうしようもないことだ。

　早く帰ろう。
　なんせ荷物が重い。久しぶりの買い出しだからって結構思い切って色々買い込んでしまった。別に出不精ってつもりじゃないんだけど、なんかこう、あんまり出かけるのも面倒というか。出かけるとその分お金使う機会が増えちゃうと思うとなかなか迂闊に外出するのも躊躇われるというか、そんな感じの。
　誘惑に強い、自制心がある、みたいに褒められたことを思い出す。そうなんだろうか。そういう風に振る舞わなきゃいけないのが身に染み付いてて、それを守ってるだけ、っていう方が私は近いような気がする。結果論でしかないんだけど。

　だのなんだのと考え事してたせいか、

「きゃっ」
「わっ」

　すれ違いざまに女の人と肩が当たってしまった。それも結構露骨に。尻もちをついてしまって呻く。
　体格差はあんまりなかったから、目の前の人も同じようにしゃがみ込んでいる。っていうか、あー、あー。

「ああー」

　腕に抱えていた買い出しの品が。あああー。まただ。
　前の時と違ってそれほど無理矢理買い込んでなかったからマシだけど。生活用品、その、石鹸とか調味料とかクラッカーの箱とか新しいタオルとかこう無残に地面に。あああー。
　女の人が慌てて起き上がって、私と負けず劣らずに嘆くような声を上げて。

「だ、大丈夫ですかっ」
「あ、いえ、大丈夫ですすみません、っていうかそちらこそ大丈夫ですかその、すみません私ぼーっとしてて」
「いえ、それは私もですので……」

　あわあわわたわたとお互い変に恐縮してるのがちょっとおかしいけど割とそれどころではなく、二人で必死になって荷物をかき集めるんだけど、ふと顔を突き合わせたときにその、女の人の手がぴたって止まって。
　静かにゆっくりと、見開かれる瞳を見た。

「ど、どうしましたか」
「あなた――モニカ？」
「へ？」

　なんでだ。なんかライセンスとか落としたか。そんなバカな。落としてないない。
　慌てて散らばったものをしゃかしゃかと確認し始めるけど、目の前のひとはくすくすと笑い出して、ええとなんで？　どっかで会った？　戦場でとか？　でも戦いそうな人には見えないし、線細いし、いやまあ私もそんな戦いそうなタイプに見えるかどうかって言われたら微妙だけど。

「ごめんなさい。あの人と雰囲気がよく似ていたから」
「あのひと」
「はい」

　そうしてその人は目を細めた。
　遠く、遠いところを見る目をしていた。



「ロニーから、あなたの話を聞いたことがあったの」

ひとりでもユニオン。