ENo.0268　ゴートリンデン

いつものように格納庫のハイドラの整備をしながら、機体の下を覗いてみる。
愛犬はよく物陰で靴下やなにかをべちゃべちゃにしていた。それを咎められる前に自ら腹を見せてきたものだ。
勿論、今そこには影も形もなかった。

あれから犬の事が気になってしようがない。
居るのではと思うと会いたくなる。

「来い」
以前呼んでいたように低めの声で呼ぶ。
声色でこちらの本気をはかっていたのか、何故か低くしないと来なかった。

駆けだしてくる姿はない。
機体に目をやったがそこにも変化はない。
「ゴートリンデン」

ハイドラを長年の愛機と思い、時に話し相手にしながらやってきたが。
犬だと思って呼びかける日が来るとは思いもしなかった。
答えはなく。ふ、とため息を吐いて操縦棺に乗り込む。
HCSを起動させシステムチェックをはじめる。
起動音がすると少し眠たいような、夢を見ているような、そんな感覚に陥る。
「ゴート」
呼びながらふわ、と欠伸がでた。
出撃もせずここに座っていると眠ってしまいそうになる。

ごそ、と胸ポケットからライセンスをひっぱり出し、そこに刻まれた[GOATLINDEN]の文字をなぞった。

犬は残像領域の何某かの使いで彼に自分の名と共に人生を置いていった。
おおよそそんなところではないだろうか。
それなのに、いまだ主人から離れがたく、見えない犬は今もその周りに漂い続けているとしたら。

（もしそうならば、見つけ出して抱きとめてやりたい）

眠気のせいかぼんやりとしてきた頭を一振りして、滞りなく稼働するHCSを終了した。

どこからか迷い込んできた雑種の犬。

遊んでほしそうにこちらをじっと見つめる犬。

筋トレをしていると腹に乗ってくる犬。

くんくん言いながら餌をねだる犬。

じゃれついてきては困らせる犬。



がいる体で。

常に見えない何かと格闘する人生。そこに犬が居てもよい。

決まりは特になし。
各自好きなようにエア犬。
-----------------------------------------------
格闘5：機動力+3％

（出入り自由。申請お気軽に。