ENo.0594　祟鬼漬クロガネ

「ああああああああ！！！！！！忘れてたああああああ！！！！！！」

その日、私は絶叫しながら頭を抱えて転げまわっていた。

そう、完全に忘れていた。
完全に忘れて、「重量級ハイドラだから機動力がないのは仕方ないよね。」なんて考えていた自分をぶん殴りたい。

『旋回速度』。完全に忘れていた。てんで忘れていた。まるで忘れていた。一切忘れていた。
ハイドラの整備を長々と続けてきた自分にとって、過去最大の過ちである。
どうしてこんなことに。

「あーもう、うだうだしてても仕方ないかぁ……。」

腐ってもエンジニアだ、間違いがあったなら修正すればいいだけの事。
とりあえずは砲塔を増設してみればなんとかなるだろう。

とはいったものの……9個の接続枠、初めの頃は多いと思ってたけど、足りない。
もっと構成を煮詰めないと、この先守っていくのは難しいだろう。
さて……、どうしたものか。

―――

「防衛戦果補正12.79％……、よし！記録更新だ。」

とりあえずは上手くいった。
早めに戦闘機動できれば、その分味方の被害を減らせる。
きたるべきストラトスフェア要塞戦に向けて、防錆力を高める必要がある。

私がここに来る直前にあったバイオスフェア要塞戦……、大量の死者を出し、全滅した戦場すらあったらしい。
……あんな悲劇を起こさせるわけにはいかない。

誰一人として殺させるわけにはいかない。
少なくとも、私の戦場では。

祟鬼漬クロガネが所有する移動式ガレージ内に設けられた小さな工房。

カタカタと音を鳴らす錆びた換気扇、プラプラと揺れる頼りない白熱電球。
古ぼけた大型テーブルに、軋みを上げる幾つかのパイプ椅子。
煤けた作業台の上には、不釣り合いなほどに新品なコーヒーメーカーが置かれている。

ここではパーツの製造のほかに、ハイドラの整備、点検、修理まで幅広く行っている。
訪れれば、やたら濃いコーヒーと一緒にぼそぼそのレーションを振る舞ってもらえるだろう。
……口に合うかは別の話だが。