ENo.0614　ルーチェ・アーミスト

セイランとの話し合いや買い出しも終わり彼女と別れた後、ルーチェはもう少し街をうろつくことにした。
自分の住む街のことだ。もっと知っておいて損の無いことは多いはずである。
しかしそれよりも彼女が気がかりだったのは......。

「コロッセオ......かぁ......」

いくらなんでも急だった。
まだ片手でも足りるほどしか戦場を経験していない中で、百戦練磨の者達相手に立ち回れというのだ。
ようやく慣れてきたと思えばまた新たな不安の種が芽吹く。
それでものらりくらりと乗り越えて来たのだ。まさか花は咲くまい......。

「セイランが意味なく登録するとも思えないし、私が参加しても問題ないってことなんだろうけど......せめて一声かけてくれればなぁ」

溜め息混じりにぼやいていると、一人の男の子がキョロキョロと辺りを見回しながら目の前を通過していった。
──迷子だろうか？
どことなく放っておけない雰囲気がする。

「ねえ、君。どうしたの？」

「......ママが迷子。知らない？」

それは何かのギャグだろうか？それから特徴の説明も無しに見ず知らずの他人の親が分かるだろうか？

「ど、どんなお母さんなのかな？」

しかしここは歳上としてツッコミを入れるような大人気のないことをするわけにはいかない。
怖がらせないよう微笑みながら尋ねる。

「ねーちゃんよりでっかくて、緑！」

──化け物か？
いや、恐らくそれは服の色で......。

「それから爪が長くて髪が長い！」

──やはり化け物では無いだろうか？

ひとまずモンスターのような様相を浮かべてしまった思考を頭を振って払い除け、長髪で付け爪、緑の服を着た女性であると仮定する。

「そっか......じゃあ一緒に探してみよう？」

「うん！」

こちらから手を差し伸べると、少年はパッと笑顔を見せて手を握る。

──大体7、8歳くらいかな？
女の私が握ってもとても小さく感じる。

しかしこの時、ルーチェは子供というものの特性を甘く見ていた。
時に木の上の虫を見つけてよじ登り、時に駆けていった野良犬を追い回す。
その小さな体のどこからそれほどのスタミナが涌き出てくるのか？
ことある毎に、ルーチェも彼を追う羽目になった。
そして数時間後......。

「ぐー......」
「......なんで？」

うとうととするような眠気の兆しもなく、彼は奢ったジュースを飲み干してすぐに眠り始めた。
ルーチェの肩に頭をもたれさせてだ。
先程までの元気な姿の欠片も見当たらない。

「私なにしてるんだろ......」

こうも振り回されると呆れすら通り越す自嘲の笑みさえ顔に浮かぶ。
というか母親探しが目的では無かったのか？
面倒を見るのに必死ですっかり忘れてしまっていた。

「ね、起きて。おぶってあげるからお母さん探そ？」
「んー......」

肩を揺すると両手をこちらへ伸ばす。
自分から背に乗る気は無いらしい。

「しょうがないなぁ......よっと！」

子供と言えど脱力した人間を背負うのはかなりの負担だ。

──例の巨大なグリーンマザーももしかしたら苦労しているのかも......。
そう感じ始めたその時だった。

「あらぁ、こんなところに居たのね！」

男性と間違えそうな図太い声。
嫌な予感に寒気がするも、声の主を確認すべくそちらへ首を回す。

「でっ......！？」

『出た』もしくは『デカい』。
どちらかを口にしそうになるも、迷ったおかげで、辛うじて声に出さずに済む。
恐らくこの子の母親であろうその性別認識不能なそれは、ざっと見ただけでも全長二メートル近い。
近くの家の戸をゆうに越えている。
そしてその筋肉質な体。

──腕が......腕が私の太腿近い太さがある......！

怯えて体が動かない。
なんと口にするべきだ？食べないでください？命だけは助けてください？
グルグルと頭を回している内に向こうがアクションを起こした。

「いやぁありがとうねぇ！私ったらこんなに背が高いのに見失っちゃって困ってたのよぉ！」

──全くその通りです。一体どのような手違いがあればこの子はあなたを見失い、あなたはこの子とはぐれられるのでしょうか？

ダメだ、声が出ない。
彼女は私の背に居る子供を片手でつまみ上げると腰元に抱える。
ルーチェは先程、親が苦労しているのかもと少しでも感じた自分の愚かさを呪う。

「お礼できるものは何も無いのだけれどとっても助かったわ！また会ったらお家へ招待してあげる！」

──結構です。

トドメを刺すかのような強烈なウィンクを残し、かのグリーンモンスターは去っていった。
後ろから見るとまるで人拐いのオーガだ。

「帰って寝よう」

今日のことは無かったことにしたい。
一刻も早く忘れたい。
そう願い、彼女は足早に帰路へと着いた。

その日夢にまであのインパクトのある巨体が現れたのはまた別の話である。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

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ユニオン活動：現在は制御*5
ユニオン購入：経験値+1、またはAP+10%