ENo.0079　レナンティス

「あー、しっかしもうほんっとにハラワタ煮えくり返る暑さだな畜生ー」

　首筋をだらだらと伝って行く汗を掌で拭いながら埒もない悪態を吐いた。
一応木陰だというのにこの容赦の欠片もない暑さ。暦は9月に入ったばかりで若干夏が残る季節なのだから仕方がないとは百も承知の上で文句を言わずにはいられない。
　服装の上では最大限の努力はしている。
薄手の生地のキャミソールにホットパンツ。ジャケットは機内へ乱雑に放り投げて。まるで海にでも行こうかという格好だ。
しかし裸でいても暑い状況なのだからどんなに涼しげな格好でも暑いに決まっているのであった。
「9月ってもまだまだ夏だな～。こんな中ドンパチやらかそうッてんだから、ハイドラ乗りはみんなＭに決まッてるぜー」
　全ハイドラライダーにお詫び申し上げねばならないような発言と共に、意味もなくぐるりと見渡すと、きらりと光るものが目の端にあった。
そちらに改めて視線を投げる。考える前に足が動いていた。
「おっちゃん、一本くれー！」
「はいよ毎度。よく冷えてるぜ。」
　銅貨数枚と引き替えに褐色の腕から涼しげな薄緑色の硝子瓶を受け取り、掌で硝子玉を押し込む。
ぽんと耳に心地好い音が響いてひとまず喉の奥へと流し込んだ。
びりびりと口の中から胃の底まで炭酸が弾ける。
「あー生き返るー！」
　麦酒でも呷ったかの様な嘆息が漏れた。
実際これが麦酒ならもっと良いのだが、流石にこれから戦闘だっていうのに飲んだくれるわけにもいかない。
冷えた瓶を項に押し当てると少しは汗が落ち着く気がした。

「……しっかしエッタちゃん、整備に時間かかッてんなー。
　逆に気合い入れすぎて、逆に撃墜ってことになんなきゃイイけど」

未だ待ち合わせ場所に現れない相方を思いながら、ぼんやりとそんなことを呟いた。

がらくたと、猫と、幽霊と。
特に何もしません。まったり。