ENo.0615　シシリー・M・W

　シリーマウスは最近ぼんやりしている。
　睡眠は足りている。
　食事はまあほどほどというところだけれど、シリーマウスは本当のネズミとは違って一日の大半食事をしなければならないわけではないし、問題はないだろう。
　だというのに、どうも頭がすっきりしない日々が続いている。
　それこそ、意識の中に霧がかかっているように。
　あまり考えることなく手や体が動くままに装備を集め出撃をして、今のところそれで死ぬこともなかったが、決していいことではない。
　そんな不安定な戦い方、修羅場をくぐってきた自分らしくないと思う。
　疲れがたまっているのかと思い、先週は戦闘も休んでしまった。
　それでも大して変わらないのだから困る。

「ふあぁあ……」

　深呼吸とあくびを何度も繰り返す。
　気晴らしが必要なのかもしれない、と思って街に出てみることにする。
　何となく――こんな散歩ですら頭を使えていない――歩いて行くと、不思議な建物に出くわした。
　倉庫かと思ったが、漏れ聞こえる金属音とオイルの匂いからするとハイドラ関係のものを作っている施設のようだ。
　ところがその入り口から、どう見ても酔っぱらっている男が出てくる。
　仕事上がりに一杯やった工員という雰囲気でもない。
　絡んできそうなそいつを睨みつけて追っ払い、建物に出ている看板を見て、シリーマウスは少し首をかしげる。
　ダガー工房【Lamp of Ice】。
　硬質ダガーだけ作っているのか？
　需要があるのか？
　なんで酔っ払いが出てくる？

「………好奇心が刺激されるね。チーズみたいに」

　入ればわかるか、とシリーマウスは扉をくぐる。

残像領域のある場所。
ある都市のうちのひとつ、霧都市。

都市のはずれ、その中にひとつ、霧の中でぼんやりと明かりが灯っている建物が見える。

霧と混じる工房の煙。
ここは、ダガー工房。
ハイドラのためのダガーを造るための人々が集う場所。
硬質ダガーに魅せられた人々が集う場所。

今日もダガーの職人、技術者、お客、全然関係ない人。
いろいろな人物がいろいろな目的で集まっている。

その様子を工房の片隅で、
無口なバーテンが笑顔で見ている。


※説明
・ダガーユニオン
・【訓練】格闘*5　【購入】経験値+1
・雰囲気ユニオン
・片隅にショットバー