ENo.0435　ブレイジングスター

｢箱｣

その代物はそう呼ばれた。


KSK重工開発チームは虚無位相技術を持て余していた。
もちろん、虚無位相を用いて機体を動かすことで単純作業効率を2倍にさせることができ、明らかな機体性能の向上に貢献した。

しかし、実験を重ねるうちに位相という現象の根本的な性質が分かってきたのだ。

虚無位相はものを時間軸をずらして二つにすることではなく、
逆時間が流れている場所から虚無状態を介して正時間が流れるこちらの世界に強引に引き入れただけだった。

位相の本質は逆時間の流れる世界のことだと気がついたのは他ではないαコア部門だった。

彼らはまず、こちらから位相へのコンタクトを図った。
虚無物質を、凍らせたり、加熱したり、一定の周波数で振動させたり、それはもう様々な実験を行った。

しかし、それらは全て徒労に終わった。位相世界からこちらに干渉してきてしまうのだ。こちらからの干渉よりも先に、だ。

ただ、そんな長く続いた失敗続きの日は終わりを告げた。




ただ、詰めたのだ。箱に。


とてつもなく密閉性の高い箱に。

ボルトやナットを用いず、溶接も用いず。

特殊放射線加工技術を用い
外部からの干渉から内部を守る箱に詰めたのだ。

箱ごと消えた。ように見えた。

消えてしまうとこちらから干渉できないので、
αコアチームはその箱に搭乗者の脳のクローンを詰めた。


その瞬間から、｢箱｣は好んでハイドラに搭載されることになった。