ENo.0600　泥の獣達

白い肌を噛みちぎる想像をする。

私の黄色い犬歯が彼女の薄い肌に突き刺さり、食い破り、その下の薄い脂と、複雑に絡んだ筋肉、血管、神経を蹂躙する瞬間を想像する。

彼女の指先を小指から順番に舌で絡め取る想像をする。
細く冷たい小指から、きちんと爪の手入れもしている親指までを順に舐め取ってゆく。
決して手を抜かず、自分の感情の昂ぶりを自制しつつ、最後までやり切る瞬間を想像する。

彼女の骨を1本1本磨いてゆく時間を想像する。
上等な紙を使い、いつまでもいつまでも磨いてゆく時間を想像する。
彼女の大腿骨が1本あれば、空虚な檻の中であろうと飽きることなんて無く磨き続けられるだろう。彼女の大腿骨を抜き出すところから、肉を削ぎ落とすところから、髄液を飲み干すところから、筋を前歯で噛み砕くところから、想像をする、想像をする、想像をする。

たとえ消え失せる記憶であろうとも、次には私ではなくなる自我であろうとも、ただひとつ彼女をそうしたという記憶さえあれば、私は何度でも何度でもそれを思い出して、幸せに浸れるだろう。

飛び出したい気持ちが翼となる。
暗い情欲が霧と共に霊障となって形をとる。
彼女に相応しい姿にならなければ。
こんな姿では無作法にも程があるだろう。

想像する。妄想する。空想する。
彼女と二人で踊るための姿を。

獣性が鎌首をもたげ私の後ろから首筋を凝視している。
私は彼女を食べてしまいたいのだ。








客観的事実から記録をつけている。
私は、いやもはや私以外なのかもしれないが。執着をしているようだ。
彼の、いや彼女なのかもしれないが、その獣としての本能なのか、子を残せぬバイオ生物達の怨嗟なのか。
私にはとめどなく溢れる感情の濁流をただ、記録するしかできない。

底が見えない水たまり