ENo.0276　ローデット・ダイス

起きたらどちらかといえばバルトの方が元気そうだった。
見つけたときには今にもくたばりそうな面してたクセに、無精ひげもそのままで
でもまあ、無事そうで良かった……


「起きたか？」

「ん、悪い。どのくらい寝てた……」

「さあ、けど俺よりは寝てたんじゃねーか」

「そりゃ分かるよ、起きてお前が話してるから」

「それもそうだな！」


豪快に笑うバルトを見れば心配しただけ損になるような気分になった。
そういえば、と思ったように辺りを見渡す。


「リタ嬢とチカは？」

「整備工場の方でハイドラ見てる」

「……お前、あいつらに私のこと言ったか？」

「いいや、何も」

「……そっか」

「お前が直接言うんだろ。だったら俺が言うことはねえよ」

「そりゃどーも、言うのはまた今度にして今日は帰るわ」

「おい、ちょっと待て。送って行くから」

「いいよ、疲れて寝てただけだ。おっさんの方が病み上がりだろ」


自分よりもバルトの方が何もない残像領域で過ごしていたんだ。
安静にしていた方がいいだろうし、こいつの周りはどうせハイドラ乗るの許可しねえだろ。


「今回くらいは安静にしてろよ、片腕しか使えないハイドラ乗りは邪魔だぞ」

「お前だって片腕だったじゃねえか」

「支援と攻撃は別物だろ。スィートチャリオットに任せて休め」

「白状だな……」

「体調を心配してやってんだろ、むしろ感謝して欲しいぐらいだね」

「だったらお前も休めばどうだ？ずっと俺探してたンだろ」

「……何も聞いてねえんじゃなかったのかよ」

「あいつらが言っただけで俺は何も言ってねえよ」

「帰る」

「ったく、気をつけて帰れよ……ありがとな」

「私は餓鬼かよ。じゃ、またな」


整備工場の方へ足を運べば、あの場所から運んでくれたのだろう自分のハイドラもあった。
それを遠くから眺めていると、こちらに気付いたのかチカが寄って来た。


「起きたんですか、もう動いても大丈夫なんです？」

「ああ、悪いな。ここまで運んでもらって」

「気にしないで下さい。見たときはそのまま置いて帰ろうかと思いましたけど」

「……」


チカ達が来たときには既に眠りに落ちていたと思うんだが
何かしただろうか、いや、頭が痛くなりそうだから深く考えるのはよそう。


「とりあえず、一回帰ろうと思うんだが私のハイドラは動くか？」

「ええ、外傷なくエネルギーが減ってたくらいですので補給ぐらいで済みました。大丈夫ですか」

「んだよ、チカも心配してんのか」

「そりゃあここ数日のダイスさん見てたらバルトより休んだ方がいいかと」

「どいつもこいつも心配性だな。今までだって動かせてたろ、それに今までより寝てたぞ」

「そうですけど、そういうときだからこそ油断しそうというか」

「心配ありがとな、大丈夫だよ」

「それならいいんですけど……」


今まで何度か起こっていた吐き気もすぐにはこないし、この調子なら帰るまでには体調くらいもつだろう。
霧は進むにつれ、どんどん濃くなってくる。
元々濃霧度の高い場所だ、暫くすればあっという間に辺りは霧で包まれる。
そこが拠点に選んだわけでもあるのだけれど、ただここ最近は探す為に何度も往復を繰り返していた。
拠点を移動させなければいけないと思い、近くの濃霧度を探っていた。


ドンッ、と脚部に何かが当たる音がする。


「――っ、何だ！？」


後方を確認するとハイドラが二機、多分相手の射撃が直撃したんだと思う。
よりによって脚部を最初にやられると逃げるにもホイールに支障が出ている。
いつの間に、と思ったが相手は次の攻撃の準備を始めている。
対してこちらの武器はほぼ皆無、索敵と機動に長けたこの機体に武器は載せていない。


『そういうときだからこそ油断しそうというか』


チカの言葉を思い出す、ああ、全くもってその通りだった。
先に拠点に帰って考えるべきだった、ダイスとしてなら生身の人間相手ならどうにかなるのに
ふう、と溜息をついて逃げられないことを覚悟してハイドラを弄る。
その間にももう一撃、今度は先程より火力が高そうな火器が当たる。


『20分後、オートパイロットモード・ON』

『バルトロイ・クルーガーにメッセージを送信しました』


次回の戦場に関してはプログラムしたから勝手に動いてくれる。
通信も完了したから後はもう一度座標を送れるタイミングを探すだけだ。
後は下手に逆らうな、生身でもハイドラでも今は勝てない、それは分かる。
だから機体から下りて、降伏の為両手をあげる。


「なんだい、おたくら。私に何の用だってんだ」

『戦場のスクリーンで賽の眼を持った奴が見えた、同行願えるか？』

「……嫌だって言ったら？それに私がその眼だって証拠は」

『多少強引になっても連れて行く、確認はその後でも構わん』


はあ、と溜息をつくと首を横に振った。


「強引なのは勘弁したい、同行するからそれで許してくれねえか」

ハイドラライダーの返事は了解とのことで、大人しく連れられて行った。

「バルト、ダイスさんから通信がきてますよ」

「あ？なンだよ、もう恋しくなったのか」

「……もう行きますからね」

「ちょっと待て、なンだこれ」


画面を見て眉を顰めるバルトに何が映っているのだろうとチカが覗き込む。
確かにダイスは時々不思議な暗号で通信を送ってからかってくることもあるが
今きたメッセージは明らかにそれとは異なるものだった。


『Please put the sentence』


その言葉と共にあったのはまるで何かを翻訳するようなメッセージ画面だった。

とあるものを求める為の集まり場。
それが何であろうと構わない、情報収集の場でもある。


制御*5、ユニオン購入は適当