ENo.0268　ゴートリンデン

犬のゴートリンデンは、今やこの残存領域から（少なくとも生きているものと接触できる世界からは）消えかけていた。
摩耗してゆく魂。僅かな電気を束ねてかたちにしているが。いずれ放電し散ってゆく。
よく維持できたほうだ。
だがもうまもなく、自分の望みを叶えられる。もとのゆらゆらとした魂に戻ろうとしている。
ただあるじを見守っていたあの頃に。

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企業とかわした契約が満了を迎えようとしている中、犬は今日もハイドラで出撃を待っていた。
ライダー証を渡してきたのも企業ならば、眠っていた自分を半実体化してHCSを起動させることが出来るようにしたのも企業だった。
そう願ったのは自身ではあったが…。
勿論犬に戦闘などは出来ず、細かい機体操作もその獣の手には無理だ。AIクローン化した主人の記憶領域から戦闘データを呼び出して戦闘に及ぶほかはない。
だがそう出来るのももうあと数週間と迫っている。

しかしその前に企業連盟のごたつきからか、メンテナンスや物流に支障をきたし始めている。
もしかするともっと早く自分は消えてしまうのかもしれないと焦る。

犬は、いそいで主人の記憶領域に自分の足跡を残さなくてはと思った。

そして、あと少しをしのげば、あとは…。
幸い給料の支払いだけは毎週ちゃんとされている。それさえあればなんとかなる。
お金があればひとまずはよいのだ。20年契約分の給料は自分の存在維持と主人の為に全てあてがってきた。

モウ…スコシ…。
モウスコシ……。

ようやく小さい人間に伝言を残し、そのためにお手までしてみせたのだ。
犬は思った。
これできっと主人は分かってくれる。
見えなくとも、この先二度と会えなくとも自分はちゃんと居たと。
自分が最初から最後までちゃんとすべて滞りなく済ませたのだと。
死んだ瞬間から主人の事を思っていたのだと。


ゆらゆらと自分の体が電子の波に溶けかけるのをかんじながら、全てが実を結びますように、と犬はちいさく鳴いた。

どこからか迷い込んできた雑種の犬。

遊んでほしそうにこちらをじっと見つめる犬。

筋トレをしていると腹に乗ってくる犬。

くんくん言いながら餌をねだる犬。

じゃれついてきては困らせる犬。



がいる体で。

常に見えない何かと格闘する人生。そこに犬が居てもよい。

決まりは特になし。
各自好きなようにエア犬。
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格闘5：機動力+3％

（出入り自由。申請お気軽に。