ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ３８：青空は出ているか？』

「青空……」
「久しぶりに見た……」
「久しぶり……？　いつ……？」
『ユリア？』
『「ザヴェーニエ・システマ」が発動する。こちらからも仕掛けるぞ』
「青空……誰と見た……？　私は知らない……青い、空……？」
『ユリア！　………！』



　まっくら、だ。

『ユリア』
　呼ぶ声が遠い。

『あなた、見て。ユリアがはいはいを始めたのよ』
　あなたって、誰だっけ？

『ユリアはあんよが上手ねえ』
　あなたの顔が見えない。

『おいしい？　ユリア』
　……わからない。

『ユリア』
　あなたは、誰だ？

『忘れていいのよ、ユリア』
　甘い声が囁く。

『あなたはここで、ずうっと暮らすの』
　耳元で、ささめく。

『忘却の底で。いつまでも、幸せに、幸せに』
　幸せだった、子供の頃のまま。

『そう、幸せにお眠りなさい』
『全部忘れてよォ』
『二度と目覚めなければ良い』
『我々の勝ち（チェック・メイト）ですよ、ユリアお嬢様』
『お前のいない「トリグラフ」なんて、ただのでくのぼうだァな？』
『後は実体を持たない接続者（スタブ）二人を潰すごとき、赤子の手を捻るようなもの』

『トリグラフ』
　接続者。
（何だっけ、それ？）

　大事な何かが抜け落ちて、思い出せない。
　とても大事だった、何か。誰か。

（でも、もうどうでもいいか）

　霜の巨人は倒れ、霧は消えた。
（霜の巨人って、何？）
（霧って、どこにある？）
　残像領域での私の役目は終わった。
（残像領域って、何だったっけ？）
　全てを忘れて、この真っ暗な闇の中、眠りにつけばいい。
（本当に？）


　……私はまだ、忘れていない。


　料理を教えてくれると、約束した人がいる。
（ニーユ＝ニヒト・アルプトラ？）

　彼の傍にいた、口の悪い、だけど優しい誰か。
（スー？）

　悔いの無い航海を互いに望んだ。
（コルヴス・コラクス？）

　電子の海で明るい声をあげていた、やたらやかましい鸚鵡の名前は。
（パロット？）

　ナース服。
（アンドリュー・ツォン？）

　最初はお互いに警戒して。
　少しずつ言葉を交わして、触れられない身体で涙を拭こうとしてくれて。
　最後に握った手は、たしかに「生きて」いた、もういない、あの子。
（……ミオ）
（ミオ・アマガセ）

　再び道を共に歩んで、仲間だと言ったら、少し驚いた顔をしていた。
（セロ）

　……そして。



『―――！』

　深淵の向こうから、誰かが呼んでいる。

『……ア！』

　私はこの声を知っている。

『…リア、ユリア！』

　いつでもまっすぐに、ひたむきに、私を呼んでくれた声。

『ユリア！　この手を取って！』

　男のくせに少し頼り無い手。
　この手を、私は知っている。

『ユリア！！』

　そう、再生した世界で、一緒に青空を見上げた。

「……エルシス！」

　闇が、晴れる。



「――ッハァ！　ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……！！」
『ユリア、大丈夫！？　生きてる！？　この指何本に見える！？』
「……３？」
『正解』
『戻ってきたようだな』
「私は……？」
『「ザヴェーニエ・システマ」に直接触れたショックで、取り込まれかけたようだな』
『だが、エルシスがずっとお前に呼びかけていた』
『お前達の絆が、「ザヴェーニエ・システマ」を超えたんだ』
「そうか……」

『何故だ！？　何故「ザヴェーニエ・システマ」が敗れる！？』
『想定外だ！　ありえない！』
『聞いてねェぞ、ダァホ！！』
『お前のせいだ！』
『責任をなすりつけるつもりか！？』
『ごちゃごちゃうるせえんだァよ！！』

『あーあ、仲間割れ、みっともないねえ』
『所詮は寄せ集めだった訳だ』
『ユリア、敵機に紛れてあいつらが来るよ！』
「よし。ならば見せてやろう、エルシス、セロ」
「真の『三位一体（トリグラフ）』の姿を！！」
『……俺も入っていいのか』
『勿論だよ！』
「言っただろう、お前も仲間だ、セロ」
『……………』
『面白い』
「いくぞ！　過去の亡霊と決着をつけるには、もってこいの空だ！！」

To be continued...

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html