ENo.0602　如月

レジスタンス・リーダーは戦線離脱したらしい。
元会長は復帰したという話を聞くが、教団は相変わらずなようで行動が読めない。
イオノスフェアの問題はどうにもならないのかもしれない。
外側の人間である私にはわからないことばかりだ。

だが一つだけはっきりしていることがある。
メルサリアは次の戦いを自らの生の最後の仕上げとするつもりでいる。
これは断言していい。
最古のドゥルガー、その実戦試験。
メルサリアの駆るリグ・ドゥルガーと彼女が率いるWH部隊の迎撃。
これがハイドラ大隊への彼女からのラストミッションの概要だ。

彼女の依頼文は直接確認した。
まさしく執念だ。
ドゥルガーの復元にメルサリアは自身の生涯を捧げたというのか。
それほどに価値がある兵器なのか。
メルサリアの趣味嗜好はともかく、ドゥルガーの性能はとても興味深いのだが……。
非常に残念に思う。
戦闘が始まる頃には、私はすでに残像領域にはいないだろうから。

すべては如月から、あの次元の怪物から逃れるためだ。
確実に私が生き延びるためだ。
残像領域の外へ離脱するという発想は私のものではない。
私に身を護る術を与えてくれた人物、魔術司祭を名乗る男からの提案で、彼はつい先日に外から来ており、また旅立つという。
自由に出入りできるというわけだ。

領域の外へと出るのは元より不可能ではない。
もとより外部からの流れ者が多い場所だ。
だが可能なだけで、簡単な話ではない。
実際のところ不可抗力によって文字通り流れてきた者は少なくない。
自由意思によって好きに出入りできるという話はないあまり聞かない。
まあ、そのあたりの詳細は省くとして、私は機会を得たことが何より重要だ。
水先案内人は不審で、本音を言えばまだ半信半疑だ。
しかし、この男の助力なくして残像領域でまともでいられる確率は低く、彼が発つというなら道連れにしてもらうほかない。

リグ・ドゥルガーは今までのどの機体より強力だ。
もしかしたら如月を破壊してくれるかもしれないのだが、私の安全をそんな不確かな可能性に委ねるのは愚かな選択だ。
私はここを出る。
身支度はすでに整えた。
一方的にだが、昔の僚友たちに別れも告げた。
如月の最後を見届けることができないのは残念だが、後ろ髪を引かれるほどの思い入れはない。
やはり私はあまり感傷的にはなれないらしい。
だから如月にならなかったのかもしれない。

最後のミッションはもうすぐ始まる。
残像領域とさようならだ。

チーム如月は『ハイドラライダー量産計画』のために集められ、かつて残像領域に存在していた研究機関。そしてその残滓です。

現在は人員も施設も事実上消滅し、機関の名前と、彼らが大隊に参加させていたウォーハイドラ1機を残すのみです。

如月を記憶している者は少なからずいるかもしれません。
しかし、この機関が存在していた事実は、遠からずして忘れ去られるでしょう。
今はまだ、如月は残像領域に繋ぎ止められています。
彼らの忘れ形見であり彼ら自身ともいえるこのウォーハイドラが壊れて朽ちるまでは、少なくとも戦闘実験を繰り返し続けるでしょう。